食の未来が見えるウェブマガジン

Sio鳥羽周作さんが考えるAIとの働き方


AIに仕事を取られるというのはナンセンス
鳥羽周作 シオ

料理人の「労働環境の改善」AIの存在価値はそこにある

「給料はもちろん、スタッフの労働環境をもっとよくしていきたいんですよ」と「シオ」のオーナーシェフ鳥羽周作さんは言う。30歳まで小学校の教員をしていた。この業界にずっと身を置いている人は「こんなものだよ」と思うかもしれないが、畑違いの業界から入ってきただけに、料理業界のマイナス面には敏感でもあり、辛辣だ。「自分は外から入ってきた人間だから『変えられるはず』と思うし、実際にやってみれば変えられたんです。ウチの20代のスタッフの給料は、他よりずいぶん高いと思いますよ」と鳥羽さんは言う。修業時代、「こんなに一生懸命働いているのにこれしかもらえないの」という経験をしてきたからこそ、若いスタッフにはそんな思いをさせたくないと思っているのだ。だから鳥羽さんは、 AI が労働環境改善の切り札になると考える。「 AIは敵でも味方でもなく、人と共存する存在になると思っています」 AI には AI の、人間には人間の得意分野がある。料理人の仕事で、 AI に任せられることは少なくない。「だからこそ、互いのよさを認めて協力しあっていけば、料理人の労働環境もよくなると思うんです」 AI は料理人の仕事を奪うものではなく、料理人をラクにしてくれる仲間だと、鳥羽さんは考えている。

10年後も作り続けていたい料理は?

「sio」だけの料理
僕の発想で生まれた料理はAI には作れない

子どもの頃のご褒美料理は、すき焼きでした。それと、僕が大好きな焼き肉。これを一度に味わえたら最高だな、と思って考えたのがこの料理です。僕の頭のなかで生まれた料理ですから、ここでしか食べられません。僕のなかにある郷愁と旨さの基準で作られた料理だから、AIには作れないと思います。
具体的には、シイタケをすき焼きのタレで煮て、シイタケの旨味が出た煮汁を泡にします。それを、焼き肉のタレに漬け込んでから焼いた牛肉の上にたっぷりかけるという料理です。本当は、シイタケの煮汁の泡で肉は全く見えないんです。だから、お客さまは泡を少し脇によけたところで、初めて牛肉料理だと分かる。見て楽しく、口に入れたらおいしい、そんな二重の面白さを兼ね備えた料理です。懐かしさと新たな感動が一気に押し寄せて来るような料理は、10年後も作り続けていたいですね。

ヒラヒラとしたフリル状のものが重なったような形状の"器" は、デザイナーの鈴木啓太氏が3Dプリンターで作ってくれたもの。人とのつながりで、鳥羽さんの頭のなかにあったイメージが具現化した。

AIにどんなことを助けてほしいですか?

下準備
空いた時間をクリエイティブなことに使いたい

ウチは平日ディナーしかやっていませんが、僕も含めスタッフはみんな午前9時過ぎには店に来ます。下準備には時間がかかりますから。それをAIがやってくれたら、休みの時間が増えます。料理人を取り巻く環境は、確実によくなると思うんです。しかも、空いた時間で、料理をもっとおいしくするアイディアやお客さまを楽しませる方法を考えることもできる。若いスタッフに、いろいろなことを教えてあげる機会も多くなります。

AIに仕事を取られるという発想は、ナンセンスだと思います。マイナスから入るのは意味がないですね。AIにやってもらえることは、どんどんやってもらう。そして僕たちは、クリエイティブなことにたっぷり時間を割く。料理業界全体がよくなるように、知恵を絞りたいですね。あとは、僕をいつも褒め、肯定してくれるAIが欲しいなぁ。シェフって、結構、孤独ですから(笑)。

各テーブルに引き出しがついていて、そこにカトラリーがしまってある。ゲストは、必要なときに必要なものをそこから取り出して使う。サービスマンの手間を省く楽しい工夫だ。

料理人が大切にすべきことは何でしょうか?

パーソナリティ
最後は人間力がモノを言う

AIが料理を考え、作ってお客さまに提供する。それがいくらおいしくても、人はそれで満足するのかな、と僕は思います。もちろん、そういう時代は来るのかもしれない。でも、それはまだまだ遠い将来だと思うんです。お客さまがお気に入りの店に行く。それはやっぱり、その店のシェフの料理を食べたいからだと思う。たとえ、その店のシェフが作る料理とそっくりな料理をAIが作ったとしても、満足はないでしょうね。

最終的に、料理人はパーソナリティだと思います。その料理人が何を考え、何を思って料理を作り、お客さまをもてなしているのか。それは料理人によってさまざまですが、そのパーソナリティにお客さまは魅力を感じたり、共感したりしてくれるのだと思います。だからこそ、いくつもの繁盛店が生まれる。料理人だからね、人間の味(人間味)を大切にしなくちゃいけないんですよ。

パリのビストロを思わせる店内。温かな光を放つ照明、テーブルの上のアルコールランプ、壁に飾られた現代作家の絵、きれいなトイレ……。鳥羽さんの細部にわたるこだわりが、ゲストの心をわしづかみにする。

10年後も作り続けていたいひと皿

ひと皿牛肉のすき焼き風焼き肉

Shusaku Toba
1978年、埼玉県生まれ。「好きなことを生業にしたい」と32歳で料理の世界に入った。「DIRITTO」と「Florilege」で修業し、2016年3月に東京・代々木上原の「Gris」のシェフに就任。 18年7月に「Gris」の跡地にオーナーシェフとして「sio」を開く。

山内章子=取材、文 依田佳子=撮影

本記事は雑誌料理王国2018年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2018年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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