次世代シェフたちが、今、考えていること(中編)


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Episode3
視線の先にあるのは社会的課題

薬師神 きっと皆さんの活動にも共通する話になりますが、今、 サスティナブルや、SDGs(持続可能な開発目標)という言葉がひとり歩きして、あまりにもコンテンツ化されている気がするんです。だから先日は、「体のサスティナブル」というテーマで、家族を対象にした味噌作りのワークショップをやりました。

平山 どのようなワークショップだったんですか?

薬師神 ひと家族にひとつ杉桶を渡して、茹でた大豆を親と子どもがいっしょになって揉む。発酵食品に親しんできた日本の食文化を引き継ぐというサスティナブルですね。そういった活動を通して僕は、様々なことが見える化されている今だからこそ、目に見えないものが大事なんじゃないかと感じました。例えば味噌作りも、親子でいっしょに作って、同じものを食べて、経験したからこそ感じ取れるものがあったと思うんです。そういった気付きを得られるようなことを、やっていけたらと思っています。

小倉 リアルな体験と、情報だけで消費しているものとは、まったく違いますよね。僕も都市農業をやっていると、にんじんの種すら見たことがない人もいたり…。意外に記号だけで消費している人も多いと感じます。口だけの人と、実際に汗を流して野菜を育てている人の格差はものすごく感じますね。

平山 アメリカでは、食のサスティナブルはどのような文脈で語られているのでしょうか?

中東 今、 シリコンバレー周辺の人たちの間で言われているのが、たんぱく質をどう効率的に摂取するかということ。それなら魚でしょ、という価値観が高まっていますね。どこで誰が獲ったのかわからない魚よりも、誰がどこで育てた魚かわかったほうが安全。その上で、地球環境に負荷を与えずに育てられた魚を食べていくことがサスティナブルだ、という声も多いです。そして、そうやって緻密に魚を育てられる国はどこかと言えば、彼らは日本を見ています。

小倉 GoogleやFacebookといった大企業の社食が充実していて、だから優秀な人材が集まるなんて話もありますよね。森枝さんは社食のディレクションも手がけていますが、その辺はどう感じていますか?

森枝 社食の充実と言うけれど、未だにレパートリーの多さみたいなところで語られている気がします。でも、そこじゃないと思うんですよね。社食を止めて、早く給食にしたらと思う。

平山 給食にすればフードロスの問題もないですしね。

森枝 20代の人たちを見ていると、社会人になって自分で食事を選べるようになっても、結局食べているのは唐揚げやハンバーグなんですよ。鯖の味噌煮なんて食べないわけです。最初から唐揚げしか食べないというチョイス。そうやって和食を食べる機会が減っていくと、将来的に鯖の味噌煮なんてメニューはなくなってしまうかもしれない。大人になっても、知らないものも食べてみるという機会を設けることは大事なんじゃないかなと思うんです。

薬師神 僕も社食のディレクションをやっていますが、会社員の昼食時間は本当に短いですよね。20分で食べ終わるような生活をしている人たちの食に対する意識を、どう考え直してもらうようにするか。それが僕に課せられたことだと思って取り組んでいます。

小倉 僕は世の中の屋上すべてが畑になったらいいなと思って活動しているので、皆さんの尽力によって食べる喜びや味わい方が広がっていくことは大賛成です。都会で野菜を育てませんか?と言っても、頭では理解できたとしてもなかなか動かないんですよ。例えばルッコラを目の前でちぎって食べさせると「これが育つんだ」と言って、一番の原動力になるんですよね。当たり前の話ですが、食べることと育てることは繋がっている。そのレイヤーがどんどん広がり深まっていくことで、都市全体、生活や暮らし全体が、もっともっと面白いものになっていくんだろうなと思います。

左から薬師神陸,平山潤,森枝幹,小倉崇,中東篤志

Episode4
ミレニアル世代はシェアすることが自然

森枝 昔は、博識な食べ手が多く、料理人はそういう人をリスペクトしていました。でも最近は、わかりやすい記号のついたお店で食べる料理が高級だと思って食べ歩く人たちもいます。もちろん高級料理を否定しているわけではないですよ。

薬師神 それは僕も感じています。そのためにも、料理人を集ってリテラシー向上のためのコーチングをしたり、シェフのブランディングもしっかりとやっていきたいと思っています。受け身ではなく、どういう方からお金をいただくか、シェフ自身が考えていく必要があると思うんです。自分のキャリアのスタートが先生だったからこそ、料理人のために仕事がしたい。食べ手と作り手の温度差や距離をどう縮めていくかが僕の課題ですね。

小倉 食に限らず、いろんなことが多様化している今、もう一度見つめ直そう、捉え直そうという意識を持っている人たちが増えているように感じます。皆さんのお話を聞いていても、教育と言うと偉そうに聞こえてしまうけど、気付きを与えることに使命感を持っているように思います。

森枝 教育も、中東さんが言っていた種まきも、すぐに答えが出るわけではない。でも、僕たちの世代ががんばっていかないと。

中東 社会とコミットする料理人がもっと増えたらいいなぁ。

薬師神 ミレニアル世代が台頭してきて、SNSを含めスマホから獲得できる情報が増えて、モノ消費からコト消費になって、シェアリングが当たり前になった。そんな世の中で育ったから、培ってきた経験をもとに自ら引き出しを開けるようになったのかなと感じます。 じゃあもっと下のGen Z世代はどうかと言えば、今あるすべてが揃っている時代に育ったわけですよね。今後どのような考え方を持った人たちが社会に出てくるのか、とても楽しみですね。

平山 僕たちミレニアル世代は、せっかく外食するなら型にはまったものではなく新しい体験がしたい、新しい知識を身に付けたい、新しい人と出会いたいという価値観を持つ人が増えていますね。食を通して人とコミュニケーションできる、そんなサロンのような空間を時代が求めているように感じます。

中東 あと、昔のものが新しいという感覚も出てきていますよね。以前、 20代前半のコにメザシ一匹焼いて出したら、「わぁ贅沢!」というリアクションが返ってきたんです。ハンバーグやスパゲッティを食べるのが日常だったら、メザシ一匹なんて漫画の世界や昔の風景なんでしょうね。今まで食べたことのない非日常を贅沢と感じたんだと思います。極端な例を挙げましたが、そういったゆり戻しが起こるんやないかなと思います。

森枝幹の仕事
食の未来を見つめるシェフの新たな提案はタイ料理店

渋谷の社員食堂「UB1 TABLE」のプロデュース、NYでのポップアップレストラン 、日比谷音楽祭のフードディレクター、青山のベジタリアンレストラン「REVIVE KITCHEN」の ディレクションなど 、2019年だけでも様々なプロジェクトを動かしてきた森枝シェフ。そんな彼のアウトプットの源流は旅。タイの山奥で食材ハントをしたり、東南アジアのレストランを訪ねる旅を続けてきた。これまでの濃密な経験をもとに、オーナーシェフとして昨年11月にタイ料理店「chompoo」をオープン。食の仕掛け人による新たな提案だ。

モダン・タイレストラン「80/20」のJOEシェフと。

INFORMATION
chompoo
東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷パルコ4F
TEL 03-6455-0396
https://shibuya.parco.jp/INNOVATORSTALK SESSION
食を通して人とコミュニケーションできる、そんなサロンのような空間を時代が求めているように感じる。

text 馬淵信彦 photo 奥山智明 location ComMunE

本記事は雑誌料理王国2020年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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