日本のカレーの進化が止まらない。カレーも、そのカレーを作る人も、より独自の道へ。「らしさ」を謳歌する5軒を紹介する。
NEW GENERATION 04
ホンカトリー
2017.OPEN
50歳から始める大人の“エモい”B級グルメ
「カレー作りが下手っぴなまま、店を始めてしまいました」店主・滝沢健二さんの語り口は、実に軽妙だ。滝沢さんは会社員として約25年間、ベルギービールの輸入販売事業に携わったが、50歳で一念発起し「ホンカトリー」を開いた。「もともと家で友人たちに料理をふるまうのが大好きで、こんなに好きならそれをやらない手はないなと」とはいえ、カレーの知識やノウハウはなかった。「会社を辞めてまでやるからには、とにかく面白くて、飽きないものをやりたい。それには、働き始めの頃のように、わからないことだらけの環境が必要だと思ったんです。試行錯誤とか、創意工夫を求められる環境は幸せだなと」
そうした経緯が、結果的に「ホンカトリー」の“どの国でもない”スタイルを生み出す。カレーは一見サラッとしたインドカレーを思わせるが、実は過去に食べたパキスタンの無水トマトカレーと、マレーシアのココナッツミルクを煮込んだルンダン、そしてベルギー人に教わったピーナッツペーストでチキンを煮込んだ料理をミックスし改良したものだ。「多種の副菜を乗せる形は、自分のカレーの試食に飽きてしまい、苦肉の策で野菜や惣菜を手当り次第カレーと混ぜて食べたら意外と面白く、『おいしいと面白いは友達だ』と気付いたことが始まりでした」語り口とは裏腹に、小鹿田焼きの器に盛られたカレーは凛とした佇まいで、色とりどりの副菜がのったライスは、まるでモネの絵画のよう。全てを混ぜ合わせて食べれば、穏やかながら酸味が効き、時おり感じられるシャープなスパイス感と、多種多様な歯ごたえが心地よい。静謐な空間に流れるJ-WAVEの音と相まって、不思議な感動がじんわり心に沁み入ってくる。
「毎日全力を出し切ってアップデートし続けています。部活の基礎練習みたいに(笑)。楽しい食事には、ちょっとした新しい経験だったり、楽しい会話だったり、丁寧さや気配りも重要な要素だと思います。それも一緒に提供できるなら、50歳で始めた意味もあるのかなと。大人の胃もたれしないB級グルメです(笑)」
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text ワダヨシ、田嶋章博 photo 本多 元
本記事は雑誌料理王国2020年6・7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年6・7月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。