8月26日、池袋にプラントベース専門のハンバーガーショップが誕生した。この店ではオランダ生まれの植物性ミートブランド「ザ・ベジタリアン・ブッチャー」のパティを使ったハンバーガーを提供していて、植物性ミートの肉屋も併設している。同店のオーナーで「ザ・ベジタリアン・ブッチャー・ジャパン」代表の村谷幸彦氏は、もともと焼肉店経営に情熱を費やしていたという。
村谷氏はなぜ焼肉から植物性ミートへ転身したのか。またCOVID-19の収束が見えない中で新店を開いたその強気の秘訣は何か――。お店や村谷氏を取材した。
オランダ生まれの植物性ミートブランド「ザ・ベジタリアン・ブッチャー」。大豆たんぱくを主原料とし、EU基準で無添加のハンバーガー用のパティやソーセージ、ナゲットなどを展開し、現在世界30ヵ国約15,000店舗で販売されている。2018年12月には、食品・日用品大手の英蘭ユニリーバが同社を買収したことで注目を集めた。同社の商品を日本で輸入販売する「ザ・ベジタリアン・ブッチャー・ジャパン」は8月26日、池袋駅西口から歩いてすぐの場所に、プラントベース専門のハンバーガーショップ※をオープンさせた。
※商品の中には、卵たんぱくなど動物由来の食材が使われている場合もある
ハンバーガーには、同ブランドの牛肉風や鶏肉風のパティ、白身魚風のフライを使用。アボカドやタマネギのソテー、ハラペーニョ、チーズといったトッピングが追加できて、フライドポテトやプラントベースドチキンナゲットといったサイドメニューや、低糖質のデザート、クラフトビールやワインなどのアルコールもある。筆者は一番人気で牛肉風のパティを挟んだ「Holy Cow Burger」(1,080円)を食べてみた。パティの食感は牛肉そっくり。混ぜ込まれたハーブがほんのりと香り、お酒との相性が良さそうだ。
利用者はベジタリアンが多いと思いきや、「客層はベジタリアンの方が4割、普段からお肉を召し上がる一般の方が6割です」と同社代表の村谷幸彦氏は話す。また店舗のターゲットは10〜20代のZ世代で、店で余った食材を客が自由に持ち帰るフードシェアリングフリッジの設置や、月額580円でお得な特典が付くサブスクリプションなどの取り組みを行なっている。「プラントベースドミートは動物肉に比べて製造過程で必要な資源が少なく、CO2排出量も抑えられ、地球に優しい食材。そういったストーリーを聞いても、大人の食の嗜好を変えるのは難しい。グローバルな視点を持ち、イミ消費を大切にするZ世代であれば、プラントベースドミートを受け入れやすいと思うのです。実店舗を構えたのは、商品だけではなく、世界観まで体感してもらいたかったからです」と村谷氏。
かつてこの場所には村谷氏が手がける焼肉店があった。村谷氏は都内のしゃぶしゃぶ店や韓国料理店、米国でホテルのサービスマンを経験し、2016年8月、この場所に豚焼肉専門店「BUTAMAJIN 池袋店」を開業。その後、植物由来の食材から肉を再現するというフードテックに感心し、オランダの「ザ・ベジタリアン・ブッチャー」を日本で広めることを決意した。2017年8月に「ザ・ベジタリアン・ブッチャー・ジャパン」を設立し、日本で卸業や通信販売などをスタート。池袋の焼肉店のメニューにも植物性ミートを加えて提供した。去年からはゴーストレストランにも参入し、焼肉店の厨房を拠点に、植物性ミートのハンバーガーやアスリートフードなど複数業態を構えて、UberEatsや出前館などでの販売を行なった。「COVID-19の影響で飲食業界が苦境に立たされる中、私たちはゴーストレストラン事業に注力して黒字経営を保つことができました。これはプラントベース事業をさらに強化するチャンスだと思い、焼肉店を改装し、ハンバーガーの実店舗を開くことにしたのです」と村谷氏は振り返る。
次の展開としては、来年春ごろから国内の有名外食チェーンとのコラボレーションを予定している。その際には素材提供だけに留まらず、ブランド名を前面に出して、世界観まで強く打ち出していくそうだ。「日本の飲食チェーンが大豆ミートをとりいれる際、素材ブランドが全面に出てくるケースは少なく、影の存在になってしまう。私たちは“なぜそれを食べるのか”というストーリーをしっかり伝えて、ブランドの認知度や価値を固めていきたいと思っています」。
■ザ・ベジタリアンブッチャー・ジャパン 公式HP
https://www.thevegetarian-butcher-jap.com
■The Vegetarian Butcher
東京都豊島区西池袋3-29-9 C3ビル B1F
TEL 03-6427-5089
11:00~22:00(LO 21:30)
火休み
text 笹木菜々子
料理王国10月号では「プラントベースと日本の食」を特集しています。欧米諸国で話題となっている背景や、日本に古くからあるプラントベースである精進料理、若手シェフが考えるプラントベースの一汁一菜レシピなど、プラントベースを古今東西、多角的に掘り下げました。最新の食の流れを知りたい方におすすめの一冊です。