ニューヨークでは屋内飲食が2月に解禁されたが、客数は定員の25%に制限されている。雪が降ってもお客の絶えない屋外ダイニングもある一方、マンハッタンだけで60軒近くが冬季休業中。気温が上がる4月過ぎまでの“冬眠中”の間は、テイクアウトやデリバリー需要にますます拍車がかかりそうだ。
そんなタイミングで注目を集めるのがレストランからのサブスクリプションサービス。「Summer Long Supper Club」は$800で週に1度、「Ataboy」や「Contra」など市内の人気レストランから3品のディナーコースが届く計16週間のプログラム。ワインメーカーの「Summer Long Wine Company」と飲食店、労働者を救済するチャリティ団体「ROAR」が手を組んだ慈善プロジェクトで、売り上げの100%が各店に還元される。1食分が$50という値段は一般的なニューヨーカーの外食予算を考えればかなりお得。しかもこのプログラムでしか食べられない特別メニューと聞けば人気が出るのも納得だ。
また、レストランがサブスクリプションサービスをオンラインで販売・管理するプラットフォーム「Table22」もある。昨年、28歳の起業家サム・バーンスタインが飲食店の収入源を増やす手助けをすべく立ち上げ、全米25都市のレストランとパートナーシップを締結。食品の提供だけでなく、会員限定のコンテンツやイベントなど、お客と店がコミュニティを構築できる画期的システムで、現在までに100万ドル以上を売り上げている。どちらのサービスも、原動力はレストラン業界を応援する人々の心。長い冬を1軒でも多くの店が乗り越えられるよう願うばかりだ。
ブルックリンのモダンメキシカンレストラン「Oxomoco」は、 2018年にオープンしてわずか5ケ月でミシュラン一つ星に輝いた異端の店だ。昨年には日本に上陸し、広尾の複合施設「EAT PLAY WORKS」に出店して話題となったが、オーナーのジャスティン・バズダリッチがまたしてもニューヨークのレストランシーンに旋風を巻き起こしている。
昨年12月、バズダリッチがグリーンポイントに開店した「Xilonen」は、ベジタリアンのメキシカンダイニングだ。パンデミック中の今だからこそ世間にサステナブルな食を伝えたいと思い立ち、チーズや卵は使いつつ肉を一切使わない“ほぼヴィーガン”にこだわったのだという。店構えはカフェ風だが、供される皿はどれも今まで見たことがないような斬新な料理ばかりだ。あえて代替肉を使わず、メインの素材はニンジンやポテト、マッシュルーム、豆など素朴な味わいの野菜や穀類で勝負しており、伝統的なスパイスやサルサを駆使して奥行きのあるうま味を実現。厳選したエアルーム種のコーンで作ったという自家製トルティーヤと一緒に堪能すれば、肉好きの人も野菜のもつポテンシャルの高さに圧倒されられるはず。さらに、チュロスやシナモンロールなど不定期で新作が登場するペストリーも大評判で見逃せない。現在は店内収容人数に規制があるため、朝から夜までメニューが10品前後に限定されているが、通常営業が可能になれば、今以上にあっと言わせる料理が登場するだろう。サステナブルかつ独創性に富んだこのベジタリアンメキシカンは、ニューヨークの今を象徴する1軒として注目したい。
小松優美
ニューヨークの食、デザイン、カルチャーを分野に活動ライター&プロデューサー。飲食店の激戦区イーストビレッジ住まいで体重増加中。
本記事は雑誌料理王国2021年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2021年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。