「日本一の地鶏を作ろう」と三重県畜産研究所が10年の歳月をかけ、1998年に誕生したのが熊野地鶏だ。2004年に世界遺産に登録された熊野古道で知られる、三重県熊野の雄大な大地で育てられている。「現在、熊野市紀和町の里山にある6棟の鶏舎で年間1万羽の熊野地鶏を飼育しています」と語るのは、(財)紀和町ふるさと公社の企画営業事業部部長の向井信行さん。
ほかの地鶏との一番の違いは、餌と水と環境にある。まずは餌だが、抗生物質を一切含まない配合飼料のほか、丸山千枚田をはじめとした熊野地域で採れた飼料米と、熊野市内で発見された新品種の香酸柑橘「新姫」の搾りかすを乾燥・粉末化したものを飼料にして与えている。
熊野地鶏は、米をよく食べるため脂ののりがよく、味が濃くなり旨味が出る。また、新姫を飼料として与えると、抗酸化作用があるとされる成分を多く含むようになるだけでなく、毛の艶がよくなる効果もあるので健康的な鶏に育つ。
「水は付近の民家も利用している山の清流を飲ませています。料理人が鶏舎を訪れると、気候・風土がよく、この環境で育っているおかげでおいしい肉になることを実感されます」
県内のふ化場でふ化した雛鳥が翌日飼育場に届けられる。体温が下がらないように、生後50日頃までは木で囲った狭い飼育室でライトを当てて育てる。その後、普通の鶏舎で平飼いにされ、60日頃から配合飼料や米、新姫を食べさせ、約110日で出荷している。熊野地鶏は脂が甘く味も濃厚で、料理人から注目されている。
昔から美味とされてきた三重県原産のシャモ「八木戸」の雄と、同じく三重県原産の「伊勢赤どり」の雌を交配させた雄に、名古屋コーチンの雌をかけ合わせた地鶏。三重県畜産研究所が1987年から研究に着手し、98年に誕生した。その翌年、「東紀州地どり」の名前で生産・販売を開始。2008年、ブランド名が「熊野地鶏」に改められ、熊野市紀和町の山間部に作られた鶏舎での飼育が始まった。生後約110日間飼育した熊野地鶏をふるさと公社の加工所で精肉処理後、真空パックしたものを配送している。肉色は赤みが強く、肉質は弾力性に富んでいる。コクと風味があり、歯応えと独自の食感に特徴がある。
中島茂信・文 高橋仁己・写真
本記事は雑誌料理王国2012年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2012年5月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。