プロのソースづくり「イル・プレージョ」岩坪滋さん


仔羊のローストに合わせる3種類のソース

「イタリア料理のソースには、トマトやバジリコなど、その土地の食材を生かした郷土色豊かなものが数多くあります。その基本の味をベースに考えながら、日本の食材も生かしたいですね」
「イル プレージョ」のオーナーシェフ岩坪滋さんには、"独自の味わい"を生み出す工夫がある。たとえば、バジリコのピュレに入るのは、焼いてうま味を凝縮させたフルーツカブ。さらに隠し味には、イタリアのガルムに代えて、日本のしょっつるが入る。

ソース作りにも、独自の工夫を盛り込み、新風を吹き込む

「仔羊の炭火ローストとともに楽しんでいただくストラコットとは、イタリア北部ピエモント州の郷土料理で煮込みを意味します」

仔羊のストラコットは、十分に煮込んだ仔羊の旨みが染み込んだ煮汁に、スーゴ・ダニェッロ(仔羊の骨でとったスープ)をプラスした煮込みソースで味わう。さらに炭火ローストには、さわやかなバジリコのピュレと、シチリア島の甘酸っぱいソース、アグロドルチェと、風味が異なる2種類のソースが用意された。

仔羊のローストは、表面を焼いた後、オイルバス(58度のサラダ油の中に40分入れておく)で均一に火入れをし、しっとりとしたに肉質に仕上げる。そして、オイルバスから上げた仔羊は、備長炭の炭火で焼き、その香ばしさを纏う。

隠れたところに、さまざまな工夫と技を駆使し、「日本の食材を生かしながら、イタリアの力強い料理を作りたい」と岩坪さん。ソース作りにも新風を吹き込む注目の料理人である。

仔羊の炭火ローストとストラコットバジリコのピュレとアグロドルチェ
香り高いバジリコのピュレが何とも優しい風味へ誘い、甘酸っぱいアグロドルチェと、仔羊の煮込みソースが美味なるハーモニーを奏でる。

【レシピ】トラコットのソース

ソースの材料(作りやすい分量)

仔羊肩肉…1㎏/タマネギ…0.5個/ニンジン…0.5本/セロリ、ローズマリー…各1本/トマトペースト…15g/白ワイン…100㏄/薄力粉…ひとつまみ/スーゴ・ダニェッロ…適量

1.仔羊肩肉を軽く掃除し(脂や筋は除し過ぎない)切り分け、塩を振る。

2.フライパンで焼き色をつける。ここでは焼き色をつけるだけなので、火を入れ過ぎないように。

3.鍋に少量のサラダ油を入れ、玉ネギ、人参、セロリの刻んだものをじっくりと炒める。

4.野菜の水分で炒め煮にした❸に、15gのトマトペーストを加え、さらに炒める。

5.❹に薄力粉をひとつまみだけ入れる。多く入れ過ぎないように注意する。

6.❺の中に❷の焼き色をつけた肩肉のブロック3つを、くっつかないように並べ入れる。

7.❷のフライパンの焼き油を捨て、ペーパーで叩くようにして油をふき取る。白ワインを加える。

8.白ワインのアルコールを飛ばしたら、白ワインを仔羊が入った❻の鍋に入れる。

9.❽に仔羊が半分浸かる程度の水を加える。水は入れ過ぎないで、足りなくなったら加える。

10.鍋に蓋をしないで、200℃のオーブンに入れて約2時間煮る。水分はこの間に足す。

11.オーブンで煮ている間、何度も仔羊を返しながら、じっくりと煮込む。

12.⓫から仔羊を取り出す。残した煮汁だけをシノワでしっかりと漉す。

13.うま味が凝縮したストラコットの漉した煮汁を適量、小鍋に入れて温める。

14.⓭に先に作っておいたスーゴ・ダニェッロ(仔羊の骨からとったスープ)を加える。

15.煮汁とスーゴ・ダニェッロを温め、塩で味をととのえる。ストラコットのソースのできあがり。

【レシピ】アグロドルチェ

ソースの材料(作りやすい分量)
サルタナレーズン…140g/松の実…140g/エクストラヴァージンオリーブオイル…60g/白ワインビネガー、シェリービネガー…各15g/塩…適量

1.松の実(左)は140℃のオーブンでローストし、冷ましておく。右はサルタナレーズン。

2.松の実とサルタナレーズンをフードプロセッサーにかけて、荒みじんにする。

3.エクストラヴァージンオリーブオイル、白ワインビネガー、シェリービネガーを加える。

4.荒みじんにした松の実とサルタナレーズンをとよく混ぜ合わせ、味をととのえる。

【レシピ】バジリコのピュレ

ソースの材料(作りやすい分量)
バジリコ…240g/フルーツカブ…4個/エクストラヴァージンオリーブオイル…60g/しょっつる、塩…各適量 

1.活きのよい新鮮なバジリコを使う。さっと水洗いして、茎から葉を取る。

2.フルーツカブは200℃のオーブンで約2時間ローストする。焼き色のついている部分は剥ぐ。

3.バジリコの葉をさっと塩ゆでする。ザルに上げてごく軽くしぼる。強くしぼらない。

4.フルーツカブとバジリコの葉、エクストラヴァージンオイルをミキサーにかけ、ピュレにする。

5.塩としょっつるを加えて、美しい緑色に仕上げるために手早く味をととのえる。

6.バジリコの香りと美しい色を活かすためには、すぐに氷で冷やすことが肝心。

仔羊の火入れ

仔羊の炭火ローストの火入れの際は、❶仔羊キャレに塩を振り、フライパンで表面に焼き色をつける。❷58℃に設定したオイルバスで約40分火を入れる。❸オイルバスから引き上げ、炭火でさっといぶり、炭火の香りを纏わせる。

岩坪さん流「3種のソース」の合わせ方

ランチもディナーもコースですから、新しいメニューを入れて、お客様にサプライズを味わっていただきたい。そのために炭火焼きローストと、じっくり煮込んだストラコットと味わいの異なった仔羊に、3種のソースで変化をつけて、香りと深みのあるひと皿に仕上げました。

Yutaka Iwatsubo

1978年、東京生まれ。辻調グループ エコール辻東京を卒業後、「アクアパッツァ」の日髙良実さんに師事。その後、3年間、イタリア全土で修業。帰国後、「クッチーナ カッパス」、「リストランテ カシーナ・カナミッラ」の料理長を経て、2012年、「イル プレージョ」をオープンする。

イル プレージョ
il Pregio

東京都渋谷区上原1-17-7
フレニティハウス2F
☎03-6407-1271
●11:00~13:00LO、18:00~22:30LO
●水、第1木(木、金はディナーのみ)
●コース 昼4210円、夜7560円~
●18席
http://www.ilpregio.jp

本記事は雑誌料理王国237号(2014年5月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は237号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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