スペインへ2度渡った経験を持ち、世界から日本を料理人の目線でとらえてきた山田さんに、和食の特長とは何かをあらためてたずねた。
「素材の素晴らしさ。余計なことをせずに手をかけ、それを感じさせないというスタンスでしょうか」
和食へと世界の注目が高まる現状を大きなチャンスだと受け止める一方で、日本の料理人に足りないものは何かを冷静に分析している。
「和食が注目を浴びている今こそ、外へ向けてもっとアピールすべき。それには語学が必要です。料理人が自分の思いをその国の言葉で語れること。せめて英語だけでも。それによって和食は飛躍的なスピードで世界に広がっていくと思います」
さらに、大切なことがもうひとつ。「教育です。現在の日本におけるフランス料理がそのお手本ですね。多くの日本人がフランスで修業し、日本にフランス料理の学校が作られたように、海外から料理人を集め、海外に海外の人のための和食の学校を作る。そして、海外で外国人が作る和食を認めてあげること。これがあまりにも少なすぎると思います」
どんな国のどんな人種の人が寿司を握っていても、それを日本人が普通に受け入れられるようになること。
このままでは、和食が誤解された形で広がってしまう恐れがある。
「でも、それ以前に日本人が日本のことを知らないことにも問題があると思いますね。まさに自分がそうでした。海外へ行っても、日本の文化や和食についての知識がないと会話ができない。世界へ出たことで自分の知識のなさを痛感しました」
山田さんが日本の食文化について勉強するきっかけは、そこにあった。そうして「山田チカラ」のスタイルとなる茶の湯の精神は、料理のみならず店作りにも込められていく。
静岡でお茶を作る家に生まれた山田さんにとって、日本茶はもともとなじみが深いものだった。和食を作るうえで欠かせない茶事を学んだことが大きな転機となったそう。
「茶事を学ぶ前と後とでは、お茶に対する考え方がまるで変わりました。亭主が客人を思いやるという茶の湯ならではのスタンスは、自己満足ではなく必ず相手あってのこと。お客様第一でどれだけ尽くしもてなすか。外国にはない考え方だと思います」
店内には8席のカウンターに、4畳半の小間が併設されている。
「本物のお茶室にはほど遠いものですが、そういったものがあることを少しでも知ってもらいたい。日本人として知って損はないことですから。洋食のテーブルマナーは学んでも、なかなかお茶を学ぼうとはならない。とくに若い人たちに、今までしたことのない体験を味わってほしい」
茶懐石のスタイルを取り込み、コースは一汁三菜のお凌ぎで始まり、茶室でふるまう日本茶で送り出す。
「端的に言えば、もっとお茶を飲んでほしいです」と山田さんは続ける。「日本茶に使われている農薬の基準値が海外と合わず、輸出がなかなかできないという問題もあります。無農薬のお茶を作っていても、それをアピールし、売り出すルートが得られない。世界の有名レストランのメニューには日本酒と同じように、お茶も加えられています。でもそこにリストアップされているのは、ほぼ中国茶。世界へも出て行けず、日本国内における消費も減少している現状をもっと知ってほしい。だからこそ、食事と同時にお茶の価値を提案したい。この店では、それを体現していると言えます」
山田チカラ
YAMADA CHIKARA
東京都港区南麻布1-15-2 1F
03-5942-5817
● 18:00~24:00LO(18:00~22:00はコースのみ)
● 不定休
● 8席
www.yamadachikara.com
田中英代=取材、文 小寺恵=撮影
本記事は雑誌料理王国第272号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第272号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。