日本で初開催となる“ガストロノミーツーリズム世界フォーラム”その目指すものとは


「ガストロノミーツーリズム」という言葉をご存知だろうか。観光に関する国際機関であるUNWTO(国
連世界観光機関)が2018年に実施した「日本におけるガストロノミーツーリズムに関する調査」においては「その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズム」という定義を用いている。食と観光を連携することで、地域の伝統や文化の多様性を守るとともに、食料生産、物流、加工や販売といった地域のバリューチェーン(価値連鎖)を向上させることを目的としている。

「サステナブルな観点でも、ガストロノミーツーリズムは有効」と話すのは、同駐日事務所の副代表である大宅千明さん。その土地や文化と結びついている「食」を目指した旅行者が増えることで、地域の資源を守り、産業発展を支え、地域に活力を与えることになるからだ。シーズナリティ(季節性)の平均化ができること、観光資源が乏しい地域でも始められることも大きなメリットといえる。スペインのバスク地方、サン・セバスチャンが、スペイン随一の軒数を誇るバルとミシュラン星付きレストランの多彩さ、美食倶楽部の存在などで「美食の街」として発展を続け、世界中から「バスクの食」を目指して観光客が訪れていることは、地域特有の資産を活かしたガストロノミーツーリズムの成功例の一つだ。

このような世界各地の事例を紹介し、知見を共有する「ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」は、2015年に初めてスペインのサン・セバスチャンで開かれた。以来、同所での開催を挟みながら、2回に1度はペルー(リマ)やタイ(バンコク)などの世界各地を会場にしている。このフォーラムの第7回が、今年12月12日から15日までの4日間にかけて、奈良(奈良県コンベンションセンター)で開催される。国内では初めての開催だ。各国の観光大臣や政府関係者、自治体関係者のほか、教育・観光関連事業者やシェフ、マスコミなど国内外から600名程度の参加が想定されている。UNWTO(本部=スペイン・マドリッド)は、160の加盟国及び6地域と、500団体以上の賛助加盟員から構成されている。地域事務所は世界に2カ所あり、その1カ所が奈良の駐日事務所だ(もう1カ所はサウジアラビア・リヤド)。駐日事務所はアジア太平洋地域の29カ国2地域の持続可能な観光を促進する拠点として機能している。

今回の世界フォーラムの開催は、駐日事務所の所在地があることに直接関係しているわけではないが、奈良県は開催地の招聘に向けて積極的に取り組みをしてきた。バンコクで開催された第4回世界フォーラムでは、荒井正吾奈良県知事が円卓会議に参加し、奈良県のガストロノミーツーリズムの取り組みを紹介している。次ページで紹介する官民一体の取り組みが評価されて、今回の誘致が成功した。

「こうしたテーマの会議が奈良で開催され、ガストロノミーに関連する地名として『奈良』が世界に記憶されることに大きな意味があると思います」と大宅さん。
「日本の風土は豊かで、地域ごとの料理があり、日本人は昔から旅先の食を楽しんでいました。また、外国人が訪日旅行に期待することの1位が〝日本食を食べること〞になっています。国内でガストロノミーツーリズムという言葉はまだあまり知られていませんが、ポテンシャルはあると感じています」

第7回の世界フォーラムのテーマは「人と地球のためのガストロノミーツーリズム:革新し、活躍を推進して、維持する」。持続可能性や女性・若者の活躍推進などについて意見を交わすトークセッションや講演などに加え、テーマ別のフィールドワークやエクスカーションも予定されている。日本最初の首都が置かれ、シルクロードから入ってきた文明を受け入れ形成された「日本の食文化の発祥の地」としての奈良の〝歴史〞や、大和野菜や薬草などの産地も擁する奈良の〝風土〞、そして奈良県が力を入れている食のバリューチェーンをつなぐための取り組みという奈良の〝今〞を、世界が味わう数日間となるだろう。

UNWTO駐日事務所副代表・大宅千明

2008年、国土交通省入省。2017年、シカゴ大学公共政策学修士。国土交通省航空局総務課、総務省自治財政局財務調査課、観光庁国際観光部国際観光課などを経て、22年より現職に。

text: Reiko Kakimoto photo: Hiroyuki Takeda

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