「京都吉兆」の豆料理『冷製湯葉』


豆は人間の生きる根源

京都𠮷兆嵐山本店 徳岡邦夫さん

徳岡邦夫さんは、料理業者として史上初の文化功労者となった湯木貞一氏の孫であり、日本を代表する料亭「京都𠮷兆」嵐山本店の総料理長でもある。数多くのイベントに招聘され、海外にも日本料理の良さを精力的に伝えている徳岡さんに、日本人にとって「豆」とはどんな存在であり、食材なのかを聞いた。

1200年間変わらず人々に必要とされてきた

「古来、豆は貴重で良質なタンパク質源として、欠かせない存在でした。特に大豆は味噌、醤油、豆腐や納豆の原料として、日本人の食文化を支えてきた偉大な食材といえます」
 なかでも湯葉は、一説によると平安時代初期に最澄が中国から持ち帰ったとされ、その姿は、長い歳月を経ても当時のまま。

「遺産として守られてきたのではなく、人々に必要とされ求められてきた結果、1200年以上も変わらず存在している。それってすごいことですよね。憧れの存在です」

なぜ「豆」にはそんな力があるのか? 素朴な疑問に、徳岡さんは、「ひと言でいえば、生きるエネルギーとおいしさが詰まっているから」と言う。人が「おいしい」と思うメカニズムは、舌だけでなく口や鼻の中にあるセンサーを通じて脳でそう感じることにある。その上で「おいしさ」は、含有する栄養と生きるために必要な量によって成立する。なぜなら、どんなにおいしいものでも、食べ続けると飽きてくる。おいしくなくなってくる。

「でも、油分や調味料を加えて調理することで、豆は再びおいしくなります。豆にはその力があるんです」

では、日本料理にとっての豆の役割はどうなのだろう。「和食にとって豆は大切な食材でした。ところが、流通が発達し、海からも陸からも新鮮な魚介類や肉類が手に入るようになりました。華美な料理が作られるようになり、豆は忘れられつつある食材なのかもしれません」。

離れにある書院造りの部屋「待幸亭」。優雅で風情ある庭園を愛でながら最高級の料理が味わえる。

一粒の豆には生きる根源が詰まっている

一方、日本人にとって馴染みの深い大豆の加工品は、現代の食卓にも欠かせない食材である。大豆に含まれるタンパク質は、熱や酸、アルカリ、金属イオンなどにより変性する。これを応用して作られているのが、湯葉であり、にがり(マグネシウムイオン)で凝集する豆腐だ。その特性を活かして、徳岡さんは2種類の湯葉を考案した。まず、汲み上げ湯葉に豆乳を混ぜて加熱し、すくい出すタイミングによって固さの異なる湯葉に仕上げた。さらに、青臭さがほんのり残る丹波黒豆の枝豆からも湯葉を作った。敢えて枝豆湯葉の苦味を加えることで、味わいと香りにふくらみをもたせたのだ。また、各々湯葉の間にあん状のソースを挟み、湯葉が混ざらないよう配慮する。食した時の香りや舌触り、味わいの広がりが感じられるよう、おいしさを演出した。

バカラの船形器に盛られた「豆のおひたし」に用いられた豆は、千石豆や、四角豆、スナップエンドウ、三度豆、ささげ、枝豆、鉈豆の種類。豆はすべて塩ゆでにした後、焼く、揚げるなど、異なる調理法で仕上げられた。

なかでもユニークなのは、柿の種のあられを粉砕し、それを衣にして揚げたピリカラ味の枝豆。豆腐ソースで和えた様々な豆は、食べ進むごとに口中に新たな発見をもたらす。

豆のおひたし

豆のように必要とされる存在であり続けたい

バブル崩壊後、業界や企業が急速に淘汰されていく姿を目の当たりにし、危機感の中で徳岡さんは祖父・湯木貞一氏の信念に立ち返った。移り行く時代を見据えつつ初心に戻り、仕入れや献立など一つひとつを見直し、試行錯誤の末に、世界に通用する「𠮷兆の料理」に到達した。だからこそ、豆のように必要とされる存在であり続けたい、と強く思う。「1200年にわたって存在し続ける豆とその料理には、人間が生きることの根源が詰まっています。豆はメインにならないとよく耳にしますが、それは作り手と食べる側の意識によって決まるものでしょう」 古くて新しい食材「豆」を見直し、未来に残さなければならない。

「そういう警告も込めて、『豆』が『RED U-35 2014』のテーマに決まったのでしょう。偉大な食材、豆を若い発想でどう調理するのか、とても期待しています」

【レシピ】冷製湯葉

椀の中には、汲み上げ湯葉・丹波黒豆枝豆の湯葉・豆腐のクルトン・枝豆 ・あん地が積み上げられ、それが3層仕立てになっている。様々な味わいや弾力感、香りが口中で複雑に絡み余韻を残す。あん地は、二番だし、みりん、カツオ節を煮立たせ醤油を加え、葛でとろみをつけたもの。

使っている豆「白インゲン豆」煮る

材料(3人分)

湯葉
汲み上げ湯葉…140g /豆乳…70g /丹波黒枝豆(塩ゆがきして、皮をむいたもの)…400g /昆布だし…300g /豆腐…1/6丁/花穂…適量

昆布だし 300g
昆布25gに対してアルカリ水500gにつけ冷蔵庫で10時間おいたもの

あん地
二番だし…300g /みりん…75g /濃口醤油…75g /カツオ節、昆布、水溶き葛…各適量

鶏スープ(70g)
手羽元…1本/手羽先…1本/昆布だし…300g /塩…適量

作り方

  1. 鶏スープを作る。手羽元、手羽先に塩をすりこみ、10分ほど置く。塩を水で洗い、熱湯をかけ霜降り状態にし、氷水で冷ます。鍋に下処理をした手羽元と手羽先、昆布だしを入れ、一度沸騰させる。アクをとり中火で10分ほど炊き漉して冷ます。
  2. 丹波黒枝豆の湯葉を作る。丹波黒枝豆300gをミキサーに入れ、昆布だしと一緒にまわす。しぼり袋に入れ絞り出す。※丹波黒枝豆100gは残す。
  3. 鍋に2を入れ、湯煎で温め湯葉を作る。
  4. あん地を作る。鍋に二番だし、みりん、カツオ節、昆布を入れひと煮立ちさせる。醤油を入れひと煮立ちさせ漉して冷ます。
  5. 4のだしを鍋に入れ、火にかけて水溶き葛でとろみをつけて冷ます。
  6. 湯葉を作る。汲み上げ湯葉、豆乳、1の鶏スープをボールに入れて混ぜ合わせる。湯煎にかけ、柔らかさの違う段階で冷やし、2種類の食感が異なる湯葉をつくる。
  7. 豆腐を1㎝角に切り、布巾にならべ水気を切る。150℃~160℃の油で揚げ豆腐クルトンを作る。
  8. 器に6の湯葉を適量入れ、3の丹波黒枝豆の湯葉、丹波黒枝豆を適量入れる。7の豆腐クルトンを入れ、あん地をかけ花穂を適量かける。
  9. 8の行程を3回繰り返し、様々な豆の食感を上から下まで楽しめるように盛付ける。

Kunio Tokuoka
1960年 京都生まれ。20歳から本格的に修業を始め、高麗𠮷兆、東京𠮷兆での修業を経て、京都・嵐山本店へ。1995年以降、総料理長として現場を指揮。2009年より(株)京都𠮷兆の代表取締役に就任。2009年から嵐山本店はミシュラン三ツ星。

上村久留美=取材、文 星野泰孝=撮影

本記事は雑誌料理王国2014年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2014年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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