北を中国、東南西をインドと接するブータン王国は、九州とほぼ同面積の仏教国。農業、林業、水力発電が盛んで、市場にはトウガラシはもちろん、さまざまな野菜が所狭しと並んでいる。
なぜブータンの人たちはトウガラシをたくさん食べるのだろう。「急峻な山岳地帯が多いこともあって、かつてのブータンでは食べられる野菜が限られていました。辛みも昔は山椒を利用していたようですが、野菜のように食べられるトウガラシがもたらされ、一気にトウガラシの利用が広がっていったといわれています」
そう話すのは、日本ブータン友好協会の事務局長でもある「ガテモタブン」の共同経営者・渡辺千衣子さんだ。地理的にも地形的にも、栽培できる作物が限られるブータンでも、トウガラシを栽培することができたのも、トウガラシをたくさん食べることにつながった。4人家族なら、乾燥トウガラシ1㎏を1週間で使い切るという。
「小学生でもおやつがわりに、生のトウガラシに塩をふって、ポリポリ食べていますよ」と「ガテモタブン」の店長、村上光さんは笑う。
20世紀中頃からは野菜栽培も盛んになり、ダイコンやジャガイモなどもたくさん採れるようになった。しかし、トウガラシ人気が下がることはないらしい。 「その理由のひとつは、トウガラシ料理がご飯に合うからだと思います。ブータンの人はとにかくご飯が好きなんです」と村上さん。
今回、村上さんがつくってくれた料理は、大辛、中辛、普通の3品。いずれも、ブータンの家庭でいまも受け継がれている家庭料理で、ご飯との相性も抜群だ。
「ブータン料理は『世界一辛い料理』と言われますが、私たちからすると『世界一トウガラシを使う料理』という表現のほうが合っているように思います」(村上さん)
辛さだけにスポットを当ててほしくない。辛いのは事実。でも、それ以上においしい料理なのだ。
干し肉のパクシャパは、干し肉と野菜の旨味がたっぷり楽しめる料理。エマダツィは、文字通りトウガラシ(エマ)とチーズ(ダツィ)を食べる料理。ホゲはサラダで、ブータン料理としては辛さは弱い。もちろん、どの料理にもトウガラシがたっぷり入る。ブータンでは、乾燥、フレッシュ、粉という3種類のトウガラシを使い分けながら、トウガラシ料理をご飯と一緒に食べる。
「味付けは基本的に塩のみ。インドや中国とは異なり、香辛料はあまり使いません」(村上さん)
日本のような出汁は使わないが、ブータン産のトウガラシを塩と一緒に煮込むと、辛さだけではなく旨味や甘味もジワジワ出てくるのだ。
トウガラシのなかには、まだまだ可能性が詰まっている。
豚バラの干し肉、ダイコン、トウガラシを煮詰めたブータンの代表的な料理。3つの素材の旨味が融合して、味わい深い。「パクシャ」は豚肉、「パ」 は塊の意味。
干し肉の旨味とトウガラシの辛みが絶妙で、見た目より辛くない。干し肉のせいか脂もサラリとしている。
トウガラシを食べる料理でシンプルな家庭料理。1日3食エマダツィという人も、少なくない。トウガラシをそのまま食べてもOKな人向き。完熟していない緑のトウガラシのほうが辛い。チーズのおかげで味わいはまろやかだけど、最後にトウガラシの辛味がドカンと口中を襲う。
旬野菜を使って、キュウリ、ミニトマト、カブ、紫タマネギ、コリアンダー、カッテージチーズ、山椒、粉トウガラシを和えた料理。山椒とカッテージチーズの絶妙な味わいを楽しみたい。
Gatemo Tabum
ガテモタブン
東京都渋谷区上原1-22-5 1F
03-3466-9590
● 12:00~14:30(14:00LO)18:00~23:00 (22:00LO、日・祝は21:00LO)
● 月・隔週火休(不定休あり)
● コース 昼950円(ワンプレートランチ)夜3000円~
● 12席
www.gatemotabum.com