世界の第一線で活躍する、今、注目のシェフたち。彼らもまた様々なものを受け継いでいる。それは伝統であったり、文化であったり、レシピであったり…。これからの料理界を担うシェフたちが、それをどう未来へ繋いでいくか。ひと皿の料理で表現してもらった。
世界のベストレストラン50で現在6位、「セントラル」のヴィルヒーリオが頭脳だとするならば、その妻で当時ヘッドシェフだったピア・レオンは、現場での絶対的な指揮官というべきだろう。ヴィルヒーリオと共に、彼女が料理しているのを見る機会が何度かあったが、統率力、仕事のスピードには目を見張るものがあった。去年、ラテンアメリカのベスト女性シェフを受賞した彼女が、自らのスタイルを表現するレストラン「キホル」をセントラルの2階にオープンした。「セントラル」の料理は、考古学や人類学などの考え方を生かし、アンデスからアマゾンまで、ペルー全土のリサーチをしながら、標高ごとに存在する食材同士を組み合わせ、その景色を再現する料理を作っていくのに対して、標高にこだわらず、自由な表現をしていくのがピアのスタイルだ。「ペルーの生物の多様性を表現していくという根本的なコンセプトは同じ。ヴィルヒーリオはアートや人類学、農業といった分野の知識が深く、それに従ったルールのもとに料理を作っている。私は、ダイナミックで直感に従うのが好きで、あまり知られていない食材の味を向上させて美味しい料理にするというアプローチを取る」のだという。
テイスティングコースのみの「セントラル」に対して、「キホル」はアラカルトで自由にオーダーもできる。「今、シェフが素晴らしいキャリアだと思われるようになってきている。だけれども、シェフがやることは変わらない。常に一貫性を持ち、ハードワークするということ。自分自身の評論家となり、チームを尊敬し、自分の仕事が、チームや食事客、そしてそれ以上の多くの人に影響を与えると理解すること。料理人であるということで、できることがたくさんあると思う」。2008年の「セントラル」のオープニング以来のメンバーでもあるピアが次の世代に伝えていきたいことは、ペルーで農業をする人と自然との間にある特別な絆。「自分が育てた農作物でも、それは個人のものではなく、自然という大きな存在から与えられたもので、感謝して共有すべき」という考え方。それを多くの人に知ってもらいたいという。
ペルー 各地で古代から伝わる多様な根菜類を、 季節に合わせて 一つのタルトに盛り込んだ。セントラルが各地の味を別の皿で 表現するのに対し、一皿にあえてペルー 各地の味わいを盛り込 み、さらに生、ソテーなど異なった調理法を使うことで、豊富 な品種だけでなく、味やテクスチャ ーのコントラストも表現し ている。赤いキヌアのようなアカザの仲間の「カニューア」も使 い、ペルーの自然の中に存在する豊かな色彩を取り入れ、その 多様性を表現した。
text 仲山今日子
記事は雑誌料理王国2019年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2019年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。