ラテンアメリカのガストロノミーを牽引 ペルー「セントラル」ヴィルヒリオ・マルティネスの料理

ラテンアメリカのガストロノミーを牽引 ペルー「セントラル」ヴィルヒリオ・マルティネスの料理

ペルーの大自然を料理で表現するヴィルヒリオ・マルティネス氏。 2020年1月に来日した氏が見せた、独創的な世界観を紹介する。

近年、世界のガストロノミーを牽引する存在となった南米のレストラン。ペルー・リマの「セントラル」はそのトップを走る店の一つだ。

シェフのヴィルヒリオ・マルティネス氏は、ペルーの自然をモダンかつ独創的に表現することで知られる。その料理に深みと説得力を与えているのが、海辺、砂漠、アンデス山脈、アマゾンのジャングルなど、変化に富むペルーの自然の中へと実際に足を運び、それぞれの環境を体感するヴィルヒリオ氏の姿勢だ。また、アンデスやアマゾンの先住民の食文化へも、敬意と探究心を持って臨む。さらには、植物学者や人類学者などとともに、ペルー食文化の研究機関を設立。自国の風土と食に対する強い情熱、バイタリティを持つ料理人だ。

ラテンアメリカのガストロノミーを牽引 ペルー「セントラル」ヴィルヒリオ・マルティネスの料理
左:アンデスの先住民の食文化では、原種に近い多彩なトウモロコシが使われている。
中:海岸、4,000m級の山脈、山のアマゾンなど、変化に富むペルーの標高を絵で伝える。
右:ヴィルヒリオ氏の妻は、料理人のピア・レオン氏。自身の店も持ち、高い評価を得ている。

そんなヴィルヒリオ氏が1月末に来日し、世界からトップシェフを招いて料理を披露する「クックジャパンプロジェクト」に4日間にわたり参加した。実はヴィルヒリオ氏は、このプロジェクトに参加するのは2019年6月に次いで2回目となる。「前回は日本の食材に寄ってコースを構成していましたが、今回は私が普段店で作っている料理に近づけています。日本とペルーの食文化を組み合わせて紹介するイメージです」と話す。

アマゾン川の源流となる山地を擁し、国土の60%が熱帯林というペルーは、カカオの名産地。ヴィルヒリオ氏は、定番のカカオ豆に加え、それを覆うパルプなども用いて7種類の品を作った。さまざまな食感と温度、仕立てで、ストレートにカカオを表現。食後に提供された。
アマゾン川の源流となる山地を擁し、国土の60%が熱帯林というペルーは、カカオの名産地。ヴィルヒリオ氏は、定番のカカオ豆に加え、それを覆うパルプなども用いて7種類の品を作った。さまざまな食感と温度、仕立てで、ストレートにカカオを表現。食後に提供された。

コースの内容は、以下で紹介する通り、ペルーならではの食材――赤色の着色料であり、香辛料にもされてきたアマゾンの「アチョーテ」、標高4,000mの高地に自生する野菜を乾燥させたもの、海藻の一種である「サルガッスム」、アンデスのスーパーフードと呼ばれている雑穀「キウィチャ」――が随所に登場。モダンな仕立ての中に、ペルーの自然に対する愛情、誇りを感じる品々が紹介された。

左:雲丹、カクトゥス、アチョーテ 生ウニ、食用サボテンのピュレ、アマゾンの香辛料兼着色料である「アチョーテ」を合わせた前菜。 中:鴨、アヒアマリージョ、標高4,000mの野菜 細かく切った鴨肉に、香りが豊かな唐辛子「アヒアマリージョ」とアンデスの芋「オカ」のピュレを合わせ、標高4,000mの地域の野菜を乾燥させてトッピングに。 右:ホタテ、マカ、海藻 生のホタテと、マカ入りのクリームを合わせた一品。
左:雲丹、カクトゥス、アチョーテ
生ウニ、食用サボテンのピュレ、アマゾンの香辛料兼着色料である「アチョーテ」を合わせた前菜。
中:鴨、アヒアマリージョ、標高4,000mの野菜
細かく切った鴨肉に、香りが豊かな唐辛子「アヒアマリージョ」とアンデスの芋「オカ」のピュレを合わせ、標高4,000mの地域の野菜を乾燥させてトッピングに。
右:ホタテ、マカ、海藻
生のホタテと、マカ入りのクリームを合わせた一品。
左:カニ、サルガッスム、沿岸の野菜 カニを主役に、チップスや野菜で作りだす美しい色使いが印象的な一品。 右:カボチャ、アボカド、車海老 さっと加熱したエビを、エビの出汁を煮詰めた濃厚なソース、かぼちゃのムースとともに。
左:カニ、サルガッスム、沿岸の野菜
カニを主役に、チップスや野菜で作りだす美しい色使いが印象的な一品。
右:カボチャ、アボカド、車海老
さっと加熱したエビを、エビの出汁を煮詰めた濃厚なソース、かぼちゃのムースとともに。
左:トウモロコシ、アンデス山脈の穀物 トウモロコシのピュレ、白とグレーのトウモロコシ、アンデスの雑穀「キウィチャ」 右上:かみふらの牛、ユカの根、オユコ 上富良野の和牛にペルーの芋「ユカ」のピュレ、ペルー伝統の茶色いソース「セコソース」を合わせ、優しい甘みとシャキシャキとした食感の根菜「オユコ」の輪切りをのせる。 右下:カブヤ、柚子、ライム 白人参の一種「カブヤ」を使った冷たいデザート。
左:トウモロコシ、アンデス山脈の穀物
トウモロコシのピュレ、白とグレーのトウモロコシ、アンデスの雑穀「キウィチャ」
右上:かみふらの牛、ユカの根、オユコ
上富良野の和牛にペルーの芋「ユカ」のピュレ、ペルー伝統の茶色いソース「セコソース」を合わせ、優しい甘みとシャキシャキとした食感の根菜「オユコ」の輪切りをのせる。
右下:カブヤ、柚子、ライム
白人参の一種「カブヤ」を使った冷たいデザート。

2回にわたるクックジャパンプロジェクトへの参加で、日本の食への理解が深まりました」と話すヴィルヒリオ氏。「自然と歴史を尊重する日本の料理に、ペルーの食文化との共通性を感じます」という。また「日本の食に流れる精神にも惹かれます。静かで、その中にエネルギーが満ちているところ。歴史を忘れていないところ」。素材や調味料の融合に加え、精神性の融合にも力を入れたコースとなったようだ。

Virgilio Martinez ヴィルヒリオ・マルティネス
NYやスペインで経験を積み、ペルーの名店「アストリッド&ガストン」でエグゼクティブシェフを務める。2009年、リマに「セントラル」をオープン。2016年の世界のベストレストランで4位など、近年は毎年上位を獲得。

text:柴田泉 photo:天方晴子

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