フランスのガストロノミーを象徴するジャンルの一つが、食肉加工品であるシャルキュトリーです。そして日本には、フランスの豊かな食文化を正しく紹介し、日本人の食生活をより充実させることを目的とした 「日本シャルキュトリ協会」があります。この協会では定期的にパテ・クルートやシュー・ファルシのコンクールを行っていますが、今年の3月10日には「第2回 シュー・ファルシ世界大会 日本地区決勝大会」 を運営(主催:ベルナルドジャパン株式会社)。その熱戦の模様をお伝えします。
まずは大会のテーマであるシュー・ファルシについて、簡単に説明しましょう。
シュー・ファルシは、フランス中南部に位置するオーヴェルニュ地方の郷土料理であり、ビストロ料理としてもよく知られている料理。時代とともにレシピや調理の秘訣が進化しており、現在のシュー・ファルシを一言で表すと「ソーセージの肉と余り肉を混ぜたものを、キャベツに詰めた料理」といったところでしょうか。伝統へのリスペクトが高まる今日、シュー・ファルシの人気も再燃しています。
ちなみに、今コンクールにおけるシュー・ファルシは以下の規定とされました。
※接着艶出し成分(寒天、ゼラチン、卵白粉など)、風味調味料、人工香料、人工着色料、市販のスパイスミックス、市販のソースおよびジュ、既調製ソースおよびジュ、トリュフおよびトリュフベースの商品は使用禁止
第1回大会では、ファルスの豚肉、仔牛肉が1%以上、という規定がありましたが、今回はなくなり、より柔軟で多様な解釈が可能になりました。これも、今のシュー・ファルシのあり方を反映したものと言えるかもしれません。
シュー・ファルシのコンクールは、本国フランスでは2022年から大会が行われていましたが、昨年の24年からは世界を対象とした大会へと拡大。世界を次の7つに区分したエリア――フランス、日本、南アジア&オセアニア、アメリカ、ヨーロッパ&アフリカ&中東、中国、韓国――での地区大会がまず行われ、それぞれのエリアの最優秀者7名が世界大会に挑みます。
今回で2回目となる日本地区の大会は、3月3日の第一次審査で、22名の応募者からファイナリスト6名を選出。その上で、1週間後の3月10日、決勝大会が服部栄養専門学校(東京・渋谷区)を会場に開催されました。
ファイナリストたちは、3時間30分の制限時間の中で、完成時1.2〜2kgのシュー・ファルシを作ります。でき上がったシュー・ファルシは、キッチンのある上のフロアから地階の審査会場に運ばれ、まずはそのままの状態で、その後切り分けて断面をチェック。そして実食審査となります。
今回は、この大会の主催であるリモージュ磁器の老舗、ベルナルド社のフランス本社よりミシェル・ベルナルド代表取締役社長が来日し、名誉審査員として審査に参加。他にも、「ガストロノミー“ジョエル・ロブション”」総料理長の関谷健一朗さんを審査委員長に迎え、トップシェフやシャルキュトリーに造詣の深い専門家など、フランス人と日本人による16名の審査チームにより、厳正な審査が行われました。
ファイナリスト達の調理および審査の順番は、以下の通りです。
藤田隼右 「帝国ホテル東京 宴会プレパレーション課」(東京)
松塚高澄 「ホテル リバージュアケボノ」(福井)
宮武秀和 「グランドプリンスホテル高輪 パミール宴会調理」(東京)
中村亮太 「リーガロイヤルホテル大阪 シャンボール」(大阪)
岡田知樹 「セルリアンタワー東急ホテル オールデイダイニング かるめら」(東京)
佐合夏海葵 「ルグドゥノム ブション リヨネ」(東京)
(敬称略)
6人の選手による6つのシュー・ファルシは、大きなキャベツの塊を想起させるところまでは共通しているものの、フォルムや色、ソースやデコレーションなどがそれぞれ異なります。今回はファルスの規定が緩和されたことが影響したのか、第1回大会よりも断面から見える構成に個性がより現れた印象。クラシカルやモダンなどの方向性の差、色彩の差など多彩で、シュー・ファルシの世界の広がり、さらなる可能性への伸びが感じられました。
また、第1回は初回ということもあり緊張感に覆われていましたが、2回目となる今回はややリラックスした雰囲気です。
そんななかチャンピオンに輝いたのは、「ルグドゥノム ブション リヨネ」(東京)の佐合夏海葵(さあい なみき)さん。「クラシックに敬意を払いつつ、今の私の感覚も取り入れたシュー・ファルシを作りたいと思いました。いくつかの要素を層で構成し、キャベツで覆う際、どうバランスをとり、どう一体感を持たせるかが苦心した点です。また、もともとそういう料理ではあるのですが、食材を無駄にせず、端材にも旨みがしっかりあるのでふさわしい使い方をするようにしました」。
2位は「セルリアンタワー東急ホテル オールデイダイニング かるめら」(東京)の岡田知樹さん、3位は「グランドプリンスホテル高輪 パミール宴会調理」(東京)の宮武秀和さんです。
関谷健一朗審査委員長は、「今回のファイナリストのレベルは高いものでした。シュー・ファルシがどのようなものかしっかり理解した上でコンクールに参加されたようにお見受けします。得点は拮抗していて、味のバランス、食材の組み合わせなどは微差。結果として、キャベツの含有量や、キャベツに火を入れた時の甘みゆえ、輪郭をはっきりさせるための調味料やスパイスの使い方が優れた人が高得点につながったと思います」と総評を語りました。
また、ミシェル・ベルナルド名誉審査員からは「どれもレベルが高く、見た目についても素晴らしいものでした。油脂は、味に豊かな旨みや香りを加えるだけでなく、見た目にも影響します。ただの煮込みにならないために、油脂の入った煮汁をキャベツにかけながら加熱してツヤを与える技術、これがあってシュー・ファルシはシュー・ファルシとなります。味についても、いずれもよかったのですが、全体的に塩気がやや弱いように感じました。フランスではもっと塩をきかせますね」という言葉も。
これらの点を踏まえれば、次回はさらにレベルの高い大会になるはず。将来へ向けてさらなる期待が感じられる講評でした。
なお優勝した佐合さんは11月10日にフランス・リモージュで開催される世界大会決勝へ日本地区代表として出場します。その様子は、日本シャルキュトリ協会のウェブサイトでアップされる予定です。
日本シャルキュトリ協会
https://charcuterie.jp/
取材・文・写真 羽根則子