小倉 さっきもSNSという言葉が出てきましたが、SNSの時代に生きていると、皆さんはそこにさらされる立場ですよね。ストレスはないんですか?
森枝 ないですね。逆に楽しいです。
中東 楽しいと思えることしかやってないからでしょうね。
薬師神 スクエアで切り取られた画像や映像だけで自分を表現するのは、すごく難しいと思います。たった140文字、たった1枚の写真だけでは限界がありますからね。その結果、深く考えることをしなくなったり、浅い考え方が正義みたいになってしまうのはよくないこと。ましてや、料理人として朝から晩まで働いていると、他業種の人と話す機会は少ないですし、自分の思考力を磨く時間を持つのが難しい。こうありたい「自分」が形成されるまでには、かなりの時間が必要になりますよね。
森枝 3年くらいは、下の立場で長い時間働く環境に身を置くのもいいと思いますけどね。そこから学ぶこと、教わることもあるので。
薬師神 虎ノ門ヒルズに料理人のためのインキュベーション施設が今秋完成する予定です。今までBtoCをやっていた料理人の能力を、BtoBに向けることだってできると思っていて。 他にもポップアップレストランをやりたい人に利用してもらったり、独立開業する前のテスト店舗として使ってもらったり、とりあえずここに来ればやりたいことが実現できて、みんなが何かしら活動しているような拠点にしていきたいと思っています。
平山 世の中の食のリテラシーを高めていくためにも、これから若い世代に訴求できる特集を考えていきたいと思っていたところなので、とても興味深いです。
薬師神 若い世代に対しては、調理学校に在学中なら居酒屋ではなく、シェフたちが集う場所でアルバイトした方が未来が開けると思うんですよ。シェフに引き抜かれるかもしれないし「フレンチをやっていたけれど、日本料理をやってみようかな」とスイッチするキッカケになったり····。そして、この事業をまわしているのが料理人であるということが重要なポイント。常に料理人目線でいることが大切だと思っています。
小倉 テック系の業界では、こういった事例は珍しくなかったと思うんですけど、料理業界にはなかったんですね。
薬師神 なかったですし、そもそも取りまとめようとする料理人がいなかったからでしょうね。だって、面倒くさいですもん(笑)。僕が前に出るのではなく、バランスのいいところに身を置いて、上の人の意向も聞きつつ下のコの意見にも耳を傾けるという、あくまで先生みたいな立場。いい連鎖を生み出して、今まで足し算だったことが二乗になっていくと面白いなと思っています。
中東 それは面白い計画ですね。僕がプロデュースしている「そ/s/ kawahigashi」は「カリナリーハブ」と呼んでいて、コの字カウンターなんです。カウンターの真ん中でスタッフが何かすると全員が見て、それについて話し合える。お客さんとスタッフであったり、お客さん同士であったり。そうやって 話が広がることで、こちらも勉強になるし、お客さんに還元することもできるわけです。今後は営業終わりに料理人を集めて、それぞれの経験をシェアできる場所作りもしていけたらと思っています。
薬師神 今日集まった料理人は、やろうとしていることの目的地が同じで、現実の問題定義もいっしょ。この座談会をきっかけに、同じことを考えている人同士が世代やジャンルに関係なく繋がっていけたら嬉しいですね。
中東篤志の仕事
京都にオープンした9席のカリナリーハブ
カリナリーディレクターとして地方創生に関わり、漁師や農家など日本全国の生産者を訪ねる活動も続けている中東さん。昨年10月、京都にオープンした「そ/s/kawahigashi」は、代表を務めるOne Rice One Soupの直営1号店。各地から持ち帰った風土や文化を、この「ハブ」で共有していく。人とヒト、人とモノ、人とコトの出会いから、何かが生まれるきっかけを与える大人の飲食基地だ。今後はアメリカ各地にも出店予定。日本の食文化の素晴らしさを広めるため、海外でのイベントも継続していく。
text 馬淵信彦 photo 奥山智明 location ComMunE
本記事は雑誌料理王国2020年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。