渡伊を決めたのは10代の頃、通っていた進学校への反発心から。千駄ヶ谷の人気店「コンヴィーヴィオ」辻大輔シェフは、そんな気概あふれる若者だったという。独立7年目を迎える今、挑戦への情熱はますます高まるばかりだ。
「コンヴィーヴィオ」の月替わりのコースには、定番の“締めのパスタ”がある。それが旬の食材を取り入れたラザーニャだ。この7月は、塩焼きの鮎を使った一品。若鮎のフリットをあしらい清流の景色を写したラザーニャは、イタリア料理であると同時に、日本の夏の醍醐味をしみじみと感じさせるものとなっている。「昨年は『鱧と梅のラザーニャ』を提供しました。メニューを決める際のポイントは、季節を感じてもらえるかどうかです」と話すのは、シェフの辻大輔さん。意外な食材の組み合わせも積極的に取り入れるスタイルは、実はここ数年で確立されたものだ。2001年に弱冠歳で渡伊し5年を過ごした辻さんは、帰国後シェフを務めた渋谷「ビオディナミコ」で、修業先のトスカーナの郷土色を色濃く打ち出した料理を提供。2012年に独立した後も、しばらくはトラディショナルなイタリア料理にこだわってきた。
「当時は少しでも多くイタリア産の食材を使うべきだと思っていました。でも自分で店を始めて何年も経つと、たくさんの国内の生産者さんと関係ができて。おいしいものを作るなら、やっぱり生産者の顔が見える食材を使うほうがいいはずと感じてから、それまでの“イタリアらしさ”に固執しなくなりました」。割り切ったことで、より食材への思い入れが強くなったと辻さん。旬を前面に打ち出した個性派のラザーニャは、辻さんの今を体現するメニューでもある。
日本で一般的なのはボロネーゼソースのラザーニャ。だが「ミラノで働いていたときは、シェフの出身地・カラブリア州の特産品の唐辛子を使ったラザーニャが定番でした。本来、厳格な決まりがない料理なんです」と辻さん。そんなイメージギャップこそ、辻さんが毎月ラザーニャに取り組む原動力だ。
「有名な料理なのに、なんとなくしか知らない方が多いでしょう。だからきちんと手をかけて作ったラザーニャを出して、何気ない普通の料理のおいしさを伝えたいんです」。辻さんの生パスタは、比較的加水率が高い。目指すのは理想的な喉越しだ。
「パスタはそもそも、具材やソースと絡めて食べるもの。日本では生パスタの“もっちり感”ばかり強調されることに違和感があります。具材、ソースと一体感があり、ストレスなく食べられるものであるべき」。コースの締めにもかかわらず、するりと入る。名物パスタの人気の理由は、そんなところにもありそうだ。
コンヴィーヴィオ
Convivio
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-17-12 カミムラビル 1F
03-6434-7907
● 12:00~15:00(13:00LO) 18:00~23:00(20:00LO)
● 日、第2月休
● 20席
www.convivio.jp
唐澤理恵=取材、文 小寺 恵=撮影
本記事は雑誌料理王国第288号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第288号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。