気鋭の若手シェフの「おいしい色」の原則は同系色、引き算、旬。シンプルがポイント
クローニー 春田理宏さんに聞いたおいしい配色
「スマートでモダン」「スタイリッシュ」。春田さんの料理を形容するなら、こんな言葉がふさわしい。開店1年でミシュランの星をとった。「使う色はできるだけ少なく、同系色でまとめます。もちろん例外もありますが、足し算より引き算という感覚ですね」と言う。東京やパリでフランス料理を学んだあと、北欧へ。フランスで修業をしていた頃は、カラフルな色使いも好きだったと言うから、今のスタイルは北欧の影響だろうか。「北欧流とは言い切れない。色に対する感覚は人によって違いますから」。つまり春田流ということだろう。
気象条件が厳しい北欧では、農作物などの食材も日本に比べて少ない。「北欧では、季節の到来を告げる旬の食物に感謝して、〝装飾〞よりも〝旬〞に重きを置くんです。だから、どうしても皿はシンプルになる。そんな感覚には共感を覚えます」たとえば、北欧ではホワイトアスパラガスの出回る春になると、前菜からメイン、デザートまで、すべてホワイトアスパラガスを使っていることもあるという。「色彩は単純でも、自然に対する感謝や喜びが満ち溢れているんです」クールな色使いの根底にある、人間と自然が織りなす幸福のストーリー。それが料理の不思議。春田流創作の重要な源泉のひとつである。
流通網が発達して世界中から旬の食材が集まってくる時代。だからこそ、「日本の旬を大切に、それを色で表現したい」と春田さんは言う。たとえば、春はやわらかでみずみずしい緑、夏は涼しげな淡い色、秋は温かみのある茶系でまとめ、冬は白で雪を表現する。組み合わせとしては同系色でまとめることが多いが、地味な色の取り合わせばかりとは限らない。「鮮やかなトマトやビーツの色が目に留まり、この色をそのままひと皿に表現したいと考えることもあります」コース全体の色のバランスも大事だが、その中には、色よりも香りや食感を優先する料理があってもいいと考えている。「色も含めて、余計なものをそぎ落としていく感覚を大切にしています」。そぎ落とすことで本当に表現したいものが見えてくる。本筋が確信できる。だから少ない色味でも決して弱々しくならない。春田さんの皿には力があるのだ。
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4色まででまとめる
どんな食材を使っているかがわかる色使いに
食べ手が何を食べているのかがわかる色彩を心掛ける。使う色もできるだけ少なくする。その色使いは、ノルウェーやデンマークで修業していた時代に学んだ。色を最小限に抑えると、そのシンプルさが「洗練」を感じさせ、ゲストを退屈させないひと皿になる。
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グラデーションを活かす
ビビッドな原色をモダンでスマートに
華やかな明るさを演出しながらも、皿に統一感を出したい時にはグラデーションを使う。たとえば、春や夏をイメージさせる緑や、クリスマスカラーのひとつである赤は、それ自体は強い色なので重くなりがちだが、グラデーションでまとめるとモダンな印象になる。
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同系色ですっきりと
同じような色を重ねるとスタイリッシュな印象に
コース料理の中で、もっとも多いのが同系色の組み合わせ。地味な色同士を合わせることが多い。目立たない色でも、それらを組み合わせることでスタイリッシュなひと皿になる。同系色をベースしたコース料理に、補色の色使いを入れてアクセントをつけるのも効果的。
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ひと目で季節がわかる表現
色の表現に質感を加えるとイメージがより明確になる
料理を目にした瞬間に季節を感じさせて、ゲストを楽しませることも大事だ。この料理の場合は、白一色で雪景色を表現。色彩の単調さを補うために「質感」を意識する。ミルクとヨーグルトのソースをパウダー状にしたことで、銀世界のイメージがよりダイレクトに伝わる。
Michihiro Haruta
1987年、大分県生まれ。2008年に渡仏し、パリの老舗レストラン「ルドワイヤン」はじめ、 12軒で計3年間修業。帰国後、東京の三ツ星店「カンテサンス」を経て北欧へ。デンマークやノルウェーの星付き店で腕を磨き、帰国後は白金台「ティルプス」のシェフを務める。16年、「クローニー」開店。
上村久留美=取材、文 依田佳子=撮影
本記事は雑誌料理王国2019年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2019年1月号 発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。