名店のベストペアリング。「エスキス」共通するテーマは『名残り(メランコリー)』


テーマ2:「名残」真名鰹、発酵マスカット、百合根

「名残」真名鰹、発酵マスカット、百合根×ホセ・パリエンテ ヴェルデホ

自家製の発酵マスカット液でマリネしたマナガツオは皮目はパリッと、身はしっとりと火入れ。銀杏、アイオリソースを加えた百合根のピュレ、アシェした蛤などの貝類を盛ったアンディーブを添える。「スペイン・ルエダの土着品種で、樹齢の高いヴェルデホを卵形のタンクで発酵させるため、口当たりがやわらかく、コク、うま味、酸味のバランスが取れてしっかりボディのある1本です。マナガツオのピュアな味わいを受け止めてくれます」

テーマ3:「獣性」仔羊、クローブ、花山椒

「獣性」仔羊、クローブ、花山椒
×レ・ボー・ド・プロヴァンス・キュヴェ・コルナリーヌ・ルージュ 2013

フランス・ロゼール産の仔羊、クローヴ、山椒の一皿。仔羊はクローヴを加えたソミュールに6時間漬け込み、さらに24時間乾燥させてからロティに。「ロゼールの仔羊は繊維が細かく、シルキーなタッチです。口に含むとスーッと溶けるよう。これには強いタンニンは不要ですから、南フランスの3品種をアッサンブラージュした果実と土の風味があふれるビオディナミの赤を。グルナッシュのなめらかさ、シラーのスパイシーさ、カベルネ・ソーヴィニヨンの力強さが溶け合い、繊細な仔羊の味を引き立てます」。

新型コロナ後はシェフの料理に少し変化があったので、それに合わせてワインの選び方を変えたと言う。リオネルさんは長年作りたかったけれど、これまであえてやらなかったシンプルな料理――トマトのタルトやプーレ・ロティなどの家庭的な味をガストロノミーに仕立てる試みに挑戦した。

この場合、トマトのタルトに合わせるのは、トマトのおいしい地域で育ったぶどうを使った果実感あるワイン。「感覚で合わせるのではなく、トマトつながりでロジカルに説明することを今、見直しています。トマトには水分があるので、凝縮感のあるものがおすすめであるとか、トマトとぶどうの育つ光景を、風の匂い、土の手触りなども含めてお話しすると、心に響くのでしょう、とても喜ばれました」。
シェフとソムリエ。唯一無二の関係が絶妙なペアリングを生み出している。

リオネル・ベカ(右)/フランス・コルシカ島生まれ。南フランスのマルセイユで育ち、20歳を過ぎて料理の世界に入る。2002年、三つ星レストランメゾン・トロワグロ」スーシェフ、2006年、東京「キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ」シェフ。2011年フランス国家農事功労賞シュバリエ叙勲。2012年銀座「エスキス」エグゼクティブシェフ。2012年自著「エスキスの料理」出版。

若林英司(左)/2012年「エスキス」支配人兼シェフソムリエ、2019年同店総支配人。2009年シャンパーニュ騎士団シュヴァリエ、2012年オフィシエ。「おいしくて心に響くワインを選ぶ」と話す。最近は日本酒のお燗と料理とのペアリングにも注目している。

東京都中央区銀座5丁目4-6
ロイヤルクリスタル銀座9F
TEL 03-5537-5580
12:00~13:00LO
18:00~19:30LO
無休

text: Mika Kitamura photo: Tomoko Osada

本記事は雑誌料理王国319号(2021年12号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は319号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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