現在、日本で栽培され市場で出荷されている野菜は、約150種類と前後。ただし、ひとつの野菜で100品種あるものもある。このなかで、日本も原産地のひとつとされる野菜はウドやサンショウ、ワサビなど、わずか20種類弱といわれる。つまり、多くの野菜は「外来種」であり、日本に伝わったのちに各地へ伝播し、長い時間をかけてその土地の風土になじみ、定着していったのだ。
薬味や香味野菜として和洋の料理に使われるネギは、平安時代に中国大陸から伝わったとされ、現在、地方(在来)品種は、24都府県で68種類が確認されている。しかし、その数字以上に、東日本では白い部分を食べる「根深ネギ」が、西日本では葉の部分を食べる「葉ネギ」など、地方差のある野菜としても知られる。そのなかから100年以上前から栽培されている伝統ネギを紹介する。
「アイヌネギ」と呼ばれる野菜があるが、これは行者ニンニクのこと。近年ではハウス、路地の栽培が進み、生産量は全国4位に。
岩切の余目地区は曲がりねぎの発祥の地
周辺が水田で地下水位が高く、立ちネギ栽培が難しいことから、横倒しで栽培する曲がりねぎが誕生した。
角館の殿さまも好んだ「曲がりネギ」
秋田の佐竹藩主が横沢知己内の旧家に立ち寄った際の接待に感動し、お礼に水戸のネギを伝授した説があることから、栽培は江戸時代からとされる。
粘土が強く、作土が少ない阿久津で生まれた原種
明治30年頃、武田鹿太郎氏が富山の薬売りが運んで来た「加賀ネギ群」の種を播いて栽培したのが始まり。アミノ酸量が多く、糖度も高い。
鮮やかな紅色で、ネギ特有の辛味が強い
栽培期間を14カ月も要し、手間がかかるため、市場に出回ることはない。
肥沃でやわらかい新里でしか作れない
土寄せを3回行うので、軟白部が多い。現在は数個の農家で自家用に栽培している程度。
江戸時代の毎年のお歳暮に
栽培は江戸時代から。栃木市の商人が江戸の地頭役所に出向く時に持参したところ好評だったと伝わる。
江戸大名もやみつき別名「殿様ねぎ」
「ネギを至急送れ」という文化2年の文書が残る。下仁田町周辺でないとおいしく育たないとされる。
「伊勢崎風土記」に登場するほどの美味
江戸時代から栽培。冬季の煮物用られた。煮て柔らかく、風味もよく葉の先端まで食べられる。
河川の氾濫による肥沃な土壌で育つ
利根川左岸の新田群尾島町と周辺で栽培。大正時代の後期には地方に出荷していた。
明治時代から自家用に栽培
桂村の圷地域で良質なものが栽培されていたことから、「圷ねぎ」とも。葉鞘部が赤紫色に発色する。
幻のねぎを再び復活した武州野菜
江戸時代以前から栽培。『成形図説』には品質を高く評価する記述が残る。
年間を通じて味わえる埼玉を代表するネギ
明治時代から栽培。県北部の深谷市を中心とした地域でつくられる。
弱風で葉折れを起こすほど柔らかい
栽培は明治時代から。西郊の砂丘地の温暖な気象で育つ希少性が非常に高いネギ。
ルーツは関西系のワケギ 1本が千本に分かれる
真野町西三川から新潟市の砂丘に持ち込まれた。非常にやわらかい。
分水町の五千石の美田に適切とされた野菜
明治44年、信濃川氾濫の被害を受けた五千石の美田に栽培されたのが始まり。
渤海から伝わり1900年以上の歴史をもつ
栽培が難しく戦後消滅したが、味を懐かしむ声が多く60年かけて復活した。
明治末期から続く金沢ねぎの系譜
明治末期から金沢ねぎの改良を重ねたもの。甘く柔らかく、ぬめりのある味わいが特徴。
明治時代初期、京都から持ち込まれた
2度植えをし、その際、斜めに植えるため、根元は曲がり、やわらかく甘くなる。
遡ること足利時代吸い物に添えられた
江戸時代には、関東地方、中京地方への土産用贈答用として珍重された。
弾力と甘みが抜群洋食に使いたい白ネギ
明治6年に東京から種子を持ち帰って栽培したのが始まり。まさに今が旬の一本。
関東と関西の融合一挙両得の中間種
江戸時代中期に栽培を開始。幕府への献上品として扱われていた。
かの武将も食べていた安土町の葉ネギ
地元では織田信長も好んで食べたと伝えられ、その糖度と歯ごたえの良さが特徴。
軟白部は少なく、緑の葉まで全て食べる
日本の葉ネギの代表的品種。京都のネギの葉栽培は和銅 4 年に導入された。
余すところなく食べられる白ネギと青ネギの中間種
始まりは江戸時代、生野代官所の役人が京都の九条ねぎの種を持ち帰ったことから栽培が始まる。根深ねぎと葉ねぎのどちらも楽しめる。
砂が堆積した土地が栽培に好条件
明治の初めに九条ネギの種を広島に持ち帰り改良を重ねて今に至る。
砂丘でも栽培でき輸送性に長ける
大正中期から昭和初期にかけて山口県から導入した千住ネギを元に品種改良した。
京阪神市場を中心に高い評価を得ている徳島市渭東地区の「渭東ねぎ」がある。戦前からつくられており、戦後に栽培は本格化した。
熊本の天草・三隅、長崎地方など西南暖地の、深ネギに不向きな地域ではネギ属の「ワケギ」が栽培される。長崎と種子島には夏ネギも。
おもな参考文献
芦澤正和監修、タキイ種苗株式会社出版部『都道府県別 地方野菜大全』(2002年、社団法人農山漁村文化協会刊)、佐々木寿著『東北ダイコン風土記』(2011年、東北出版企画)