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「ジョエル・ロブション」火入れの哲学(後編)


長い歴史の中で厳密に定義づけられ、体系づけられてきたフランス料理の火入れ。そのロジックの明確さはまさに群を抜いている。ここでは、ガストロノミーの世界で活躍する2人のシェフが登場。現在の、自分の「火入れ哲学」を、2種の火入れ技術、3品の料理を通して紹介してもらう。

前編はこちら  https://cuisine-kingdom.com/hiire01-1

火入れを語る

今回私は、ロティールとエテュヴェという調理法を選びました。
ロティールというと、今では厳密に温度管理されたオーブンでの加熱による料理も、そう呼ぶことがあります。しかし原形は、今回私が紹介した、そしてジョエル・ロブションが強い愛着を持っていた、炎によるロティールです。
フランス高級料理における、このタイプのロティールの歴史は古く、中世にさかのぼります。暖炉の火で塊肉を焼くのが、当初のスタイル。その担当者は宮廷料理人の中でも、最も尊敬されていたと言います。肉の状態を細やかに確認しながら、回転させ、向きを変え……経験と技術が必要な仕事です。
一方、現在もフランスには、街場に多くのロティサリー――ロティサリーでロティールした丸鶏などの肉を売る専門店があり、人々の日常で親しまれています。グルグルと回転しながら焼き上げられる一羽まるごとのチキンは、やはり見るからにおいしそうです。
こうした伝統や生活の中に根付いた料理にこそフランス料理の技術は拠って立つものです。ただし高級レストランであれば、より厳密に素材の状態、加熱途中の状態を的確に把握し、対処し、何段階も洗練された料理に昇華させなければなりません。それが、フランス料理のガストロノミーの意義であり、魅力です。
 

エテュヴェもまた、フランスの家庭で親しまれている加熱技法です。そもそもフランスにおける鋳物の鍋は、日本における土鍋のような存在。家庭で長く大切に引き継がれている、懐かしさを呼び起こす道具です。そんな道具を使って、どうガストロノミーを実現するか? たとえば今回なら、アスパラガスとモリーユを別々にエテュヴェし、それぞれが最高に仕上がるピンポイントの火入れを狙います。途中の混ぜ方、蓋の開け閉めにも気を遣います。
何が目的で、そのためにどうするか、きちんと理解する。料理とは根本的にそうしたものだと思いますが、加熱でも同様。この意識を突き詰めることで、どんな素朴な器具を使っても、極上の洗練を生み出すことができるのです。

エテュヴェ( Etuver )とは
鋳物の鍋に素材を入れ、少量の油脂を加え、蓋をして蒸し煮にする技法。素材自体から水分を引き出し、それを蒸気にしてじっくり、優しく加熱。少量の水分を補うことも。重い蓋で密閉するのがポイントなので、鍋は鋳物製であることが大事。

野菜のエテュヴェ

蒸気を素材ごとに操る

グリーンアスパラガスとモリーユ茸のココット
ヴァンジョーヌの香りで

みずみずしく、風味豊かに素材を仕立てるエテュヴェの力
アスパラガス、モリーユは順に別々にエテュヴェし、最後に合わせる。アスパラガスは、香りと水分を引き出しそれを再度閉じ込めるイメージで加熱。モリーユは、モリーユ自体からのエキスを、加えたバターなどと乳化させるよう混ぜながら加熱。適宜蓋をして蒸気を閉じ込め、理想の仕上がりに持っていく。

ミカエル・ミカエリディス

1982年生まれ、カンヌ出身。叔母がレストランを経営していることに触発され、料理の道に。20歳でロブションのグループに入り、シンガポールではシェフ在任時にミシュラン三つ星を獲得。2017年、現職に就任する。

ガストロノミー “ジョエル・ロブション”
東京都目黒区三田1-13-1 恵比寿ガーデンプレイス内
TEL 03-5424-1347 又は TEL 03-5424-1338
https://www.robuchon.jp/


text 柴田泉 photo 天方晴子

本記事は雑誌料理王国2020年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年5月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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