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「0.6%」を支える北の羊飼い#1 羊王国復権を担った中興の祖 武藤浩史さん/茶路めん羊牧場


国産の羊肉は希少である。国内に流通する羊肉のうち国産はわずか0.6%。一般の家庭ではほとんど食卓に上ることはなく、プロでも国産の羊を使うことができるのは、星がつくようなごく一部のトップシェフのみ。そうした極上の羊肉は、北海道から送り出される。国産羊肉の実に50%以上が北海道で生まれ育った羊なのだ。北海道で羊に生き、羊と暮らす、5人の羊飼いに会うため、「羊SUNRISE」の関澤波留人さんとともに北海道は道東へと飛んだ。

羊王国復権を担った中興の祖
武藤浩史 茶路めん羊牧場

この人がいなければ、北海道の羊を巡るシーンはまったく違うものになっていたかもしれない。

 1958年、京都府に生まれた武藤浩史さんは、道東における羊飼いの中興の祖であり、開拓者である。

 きっかけは進学した帯広畜産大学(畜大)在学中、恩師にすすめられて口にした羊に「こんなにおいしいものがあったのか!」と衝撃を受けたことだった。

 以来、武藤さんは羊にのめり込み、大学院にまで進んだ。しかし当時、めん羊は下火だった。周囲が「羊の勤め先なんてない」というように就職活動は苦戦し、修了後はカナダの牧場へと飛んだ。現地で実習を積み、帰国後は帯広市内の牧場で働きながら、独立への道を探った。

 茶路めん羊牧場を立ち上げたのは1988年。酪農家の土地を借りて、35頭の羊を携えての挑戦だった。当時は新たに羊飼いを始めようという個人など皆無。新規参入はおろか、兼業で羊を飼っていた農家さえ羊から手を引いた。羊にとって暗黒の時代だったのだ。

 それでも武藤さんは前を向いた。1992年には食肉処理の許可を取り、自ら枝肉を分割して個人向けにも販路を広げた。サフォークだけでなく、肉用種のポール・ドーセットなども導入した。「(羊の)品種のリクエストは受けない」ものの部位や月齢など、プロのシェフからの細かいリクエストにも応えていった。

「フォリオリーナ(・デッラ・ポルタ・フォルトゥーナ)の小林幸司シェフなんて、内臓ばっかり持っていくんだよ」と苦笑いするが、トップシェフほど内臓肉の質にうるさいのは承知のはず。どこかうれしそうでもある。

「羊飼いになりたい」という後進がいれば、面倒を見た。現在、羊の飼育は畜大時代からここで羊修業を積んできた取締役の鎌田周平さんが手がけ、武藤さんは肉と向き合う日々である。

 2015年には牧場で育てた羊肉が食べられるファームレストラン「クオーレ」をオープンさせた。シェフは羊肉を卸していた札幌の「Osteria YOSHIE」で修業していた白糠出身の漆崎雄哉さんを抜擢。当時まだ24歳という若いシェフだったが、翌年にはミシュランガイドでビブグルマンを獲得した。

 若いシェフが焼き上げた「仔羊のアロスト 季節の野菜添え」を口に運ぶ。火入れはパーフェクト、噛むほどにクリアな味わいが伸びていく。 武藤さんは羊飼いとして道を拓き、肉をさばき、販路を作り、後進を育て、飲食店も出店した。

 まさに開拓者。すべての範となるべき背中がある。

茶路めん羊牧場
MAIL [email protected]
FAX 01547-2-3546
http://charomen.com/

ファームレストラン クオーレ
北海道白糠郡白糠町茶路川西
TEL 01547-2-5030
火水木日11:30~18:00(17:00 LO)
金土11:30~15:00(14:00 LO)/18:00~21:00(20:00 LO)
https://charomen-cuore.com/


text 松浦達也 photo 岡本寿

※本特集で取り上げた牧場は観光牧場ではありません。取引申し込みや見学等に際しては事前連絡の上、牧場主の了承を得たのちに訪問してください。

本記事は雑誌料理王国2020年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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