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トップシェフが引き出す!アイリッシュ グラスフェッドビーフの魅力② 「ラフィナージュ」高良康之さんの火入れ


食材の産地を訪ね、多くの生産者と交流を持つ『ラフィナージュ』のシェフ高良康之さん。今回『アイリッシュ グラスフェッドビーフ』を焼いてもらうにあたって、この肉に何を感じたのか、まずはその感想を聞いてみた。


「いわゆるグラスフェッドビーフとは良い意味で印象が異なりました」と朗らかに話す。牛肉に精通する高良さんはグラスフェッドビーフを扱った経験も豊富だ。そんな高良さんから見たグラスフェッドビーフは、優しくて繊細な肉という印象があるという。


「アイリッシュ グラスフェッドビーフは、ある意味、繊細なグラスフェッドビーフらしからぬ肉ですね。その理由は赤身に凝縮感があり、旨みをしっかり感じさせてくれる肉だからです。とくに、これから焼こうとしているサーロインはきめが細かく、肉質がしっとりしているので、その持ち味を引き上げるような調理をしてあげたいですね」。

実際に、この肉を高良さんはどう扱うのだろうか。おすすめの料理法を聞くと、「ある程度の塊でローストにするのがいいかなと思っています」という。焼く時は弱火。グラスフェッドビーフのような赤身の肉は、脂が多い牛肉と比べると水分が多いという。そこで、強火では肉の中の水が急激に沸いて中まで一気に火が入ってしまうのだ。それを防ぐために、弱火でゆったり焼いてあげることが重要になる。

高良シェフによる火入れのテクニック!動画はこちらから
https://www.youtube.com/watch?v=wCdVgVZloJ4

焼く前のトリミングにも高良さんならではのセオリーがあった。肉に均一に火を入れられるように、まずは厚みを均等に調える。焼くと縮んでしまう太い筋は外し、香りが出る脂はそのまま残す。これは脂からでた香りを肉にまとわせるため。脂は仕上げに外すが、こうすることで、より肉に風味をもたらしてくれるのだ。また、肉を均等の厚みに成形するために紐をかけるのも高良流。肉の形をトントンと叩いて整え、その形を維持できるように、紐を回しかけて固定する。

「紐は指が一本入るくらいのゆるみをもたせます。肉は縮むと思っている方もいるかもしれませんが、それは肉の水分が流出してしまうからです。きちんと焼いてあげれば、熱が入った分だけ質量が増えるので、肉は焼くと本来は膨らむんですよ。その膨らみを計算して、紐にすこしゆるみをもたせておきます」

高良シェフによる火入れのテクニック!動画はこちらから
https://www.youtube.com/watch?v=wCdVgVZloJ4

今回はオーブンを使わず、フライパンだけで3回に分けて焼く。この焼き方ならば家庭でも挑戦できそうだ。まず選んだのは樹脂加工のフライパンだった。
「樹脂加工のフライパンは温める必要がないので、冷たいところに肉を置く。それが赤身肉を焼くのに適しているんです。鉄のフライパンは先に温める必要があるので、その分だけ肉に火が入りやすく、その調整が難しいと言えます」

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弱火にし、すべての面にまんべんなく熱が入るように転がしながら焼くが、焼き色はつけないように注意する。温度はだいたい110℃だ。
「こうして弱火でゆっくり火を入れてあげると1つの面にストレスが集中しないので、肉にも優しく火が入ります。紐のゆるみが少なくなってきたら、肉が膨らんで火が入った証拠なので、いったん休ませてください」。
休ませるときは、底になる面にも熱がこもらないように、網の上に置くのもポイントだ。少し置いて肉の表面が乾いてきたら、いよいよ2回目の“焼き”に入る。使用したフライパンに残った油はぬぐい、新しい油を足してフライパンは温めずに肉を戻す。

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2回目の“焼き”も初回と同じように弱火で火を入れる。転がしながら焼き、同じ面に熱を集中させないことが大切だ。肉がふっくらとしてきたら終了の合図だが、肉の中心まで金串を指し、それを唇の下にあてて温度を確かめる。少し暖かいと感じたらOK。熱を効率よく逃がすため、良く焼けている方を上にして置き、焼いた時間の倍を目安に休ませる。

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そして3回目。最後は焼き色を付けたいので鉄のフライパンを熱してから使う。
「仕上げは食べる温度に温めてあげる作業です。中火にして、周囲に焼き色も付けていきます。脂が少ないグラスフェッドビーフに香りとコクを足したいのでバターを加えました。肉がふわっとしたら焼き上がりです。

最後に、アイリッシュ グラスフェッドビーフのしっかりした旨みを引き立てるために赤ワインソースを添えた。また盛り付けにも料理を美味しく食べてもらうための考え方が盛り込まれていた。例えばこの皿はあえて奥に肉を置き、ソースを散らす。これで肉だけを味わうこともできるが、ソースと一緒に味わうこともできる。
「こう食べてくださいと押し付けるのではなく、お客様が自然とそう食べられるように盛り付けることを意識しています」

「こう食べてくださいと押し付けるのではなく、お客様が自然とそう食べられるように盛り付けることを意識しています」

愛情をもって牛に接することが肉質に大きく影響を与える。数多くの生産者を見てきた高良さんはそう感じている。そしてこれまでも、そういう愛情のある生産者の食材を厳選して扱ってきた。
「アイリッシュ グラスフェッドビーフを育てる農家でも、愛情をかけていたのでしょうね。それが感じられる肉質でした。赤身の凝縮感にはアイルランドという土地の個性もしっかり現れていますね」

それぞれの牛肉を、どれが良くてどれがよくないと否定するのではなく、育った土地から受け継いだ個性に合った料理をしたいと高良さんは考えている。
「そうすることで料理の幅が広がるので、多様な肉と出会うことは、料理人にとってとてもありがたいことなんですよ」と笑った。

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アイリッシュ グラスフェッドビーフに関するお問い合わせ
アイルランド政府食糧庁Board Bia(ボード・ビア)
https://irishbeef.jp/

Yasuyuki Takara
1967年東京都生まれ。「ホテルメトロポリタン」を経て1989年に渡仏し、約2年間修業を積む。帰国後「ル・マエストロ・ポール・ボキューズ・トーキョー」などを経て、2007年「銀座レカン」の料理長に。2018年に独立し、同年10月に「レストラン ラフィナージュ」をオープン。

取材・文=岡本ジュン 写真=小沼 祐介


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