パリ北駅にもほど近い、新興トレンド地区に位置する「レストラン・アブリ」は、いつも地元客で賑わっている。客の90%以上はフランス人。20席ほどの店で、顧客リストは5000人を超える、超人気店である。
その厨房で、忙しく手を動かしているのが沖山克昭さんだ。1996年に調理師科(1年制)を卒業。国内の名だたる店で修業をしたのち、24歳でフランスに渡った。「最初は5年くらい働いて勉強をしたら、日本に帰って店を出そうと思っていたんです」と沖山さんは言う。しかし、3年ほど経ったときに、「あと2年パリで修業をしても、日本で働いていた店のシェフたちにはとてもかなわないな」と思った。だったら、こっちで勝負したほうがいい。たまたま自分と同じくらいの年齢の料理人で、パリに店を出している人間がいなかったことも、沖山さんの背中を押した。「ただ、僕はコツコツと開業資金を貯めたり、店舗運営のための金勘定ができるタイプではありません。ですから、お金は誰かに出してもらうしかないと思いました」
そのためには、料理人としての自分に魅力がなければいけない。「僕は自分と自分の料理を、人に認めてもらえるように努力しました」
かくしてスポンサーも見つかり、出店の運びとなった。「当初から僕は、地元の人たちが気軽に入れる店にしたかった。だから、値段は低く設定しています。安すぎると言われますけれど、僕はこれでいいと思っているんです」
パリの「レストラン・アブリ」で記念撮影。右から小高先生、関口先生、沖山さん、藤代さん。藤代さんも服部栄養専門学校の卒業生だ。
カルパッチョ ド トリュフ
トリュフのカルパッチョに茹でた骨髄やローストしたヘーゼルナッツなどを合わせ、ラベッジ、セルフイユ ソバージュ、エストラゴン ソバージュ、イタリアンパセリでつくった濃厚なエマルジョンを添えたひと皿。
味も、徹底的にフランス人好みにしている。自分がレストランに行っても、フランス人はどんなものを喜んで食べているかを観察する。食材もしかり。自分が嫌いな食材でも、フランス人が好きならそれを使った料理にチャレンジしてみる。
「そして、基本的に同じお客さんに前に来たときと同じ料理は出しません。ほんのわずかでも、変えるようにしています。だから、毎日胃が痛いんです」と沖山さんは苦笑する。
薄い皮が特徴的なノワルムチエ島産のジャガイモをコンフィし、タマネギのエマルジョンを合わせただけのシンプルなひと皿。小枝(乾燥させたフェンネル)を添えた演出が面白い。
「Top 100+ European Gourmet Casual Restaurants 2018」では5位。4位まではスペインとイタリアの店が占めているので、フランスでは実質1番だ。カンヌ国際映画祭で料理をつくる6人のシェフの1人にも選ばれ、この5月、カンヌでも腕を振るった。若者に人気のグルメ誌『Fooding』で、毎年10軒のみ選ばれる最優秀賞も受賞している。「パリで店をやっていて痛感するのは、技術より感性を磨くことが重要だということ。個性をつくることが大事。日本人は真似しているだけの場合が多いですね。フランス人はめちゃくちゃセンスがいい。それが悔しいし、負けたくないという気持ちも強いです」
パリに来て18年。運動部出身の〝アスリート系シェフ〞は、料理においても負けず嫌いだ。
マグロとオレンジサンギーヌ、タップナードオリーブをミルフィーユ状に重ね合わせ、生クリームを添えたひと皿。
1976年神奈川県生まれ。高校まではスポーツ(陸上)中心の毎日で、担任教師の勧めもあり料理人に。服部栄養専門学校を卒業後フランス料理店で修業し、2000年に渡仏。「ジョエル・ロブション」「タイユヴァン」「アガペ」など20軒以上のレストランで経験を積み、12年に「レストラン・アブリ」をオープン。16年には「アブリそば」を開店。(右が沖山さん)
Restaurant abri
レストラン・アブリ
92 rue du faubourg poissoniere 75010
PARIS
☎+33 (0)1 83 97 00 00
●12:30~14:00、19:30~22:00
●日・月休
●コース 昼€26(4品)、夜€49(6品)
●24席
山内章子=取材、文
本記事は雑誌料理王国289号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は289号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。