津軽っ子のソウルフード「毛豆」を知っていますか?


日本海に面した青森県津軽地方は、白神山地や岩木山などの山々を抱え、広大な津軽平野を有する。夏は涼しく、冬は雪の多い地域である。
この地形と気候から生まれた独自の発酵食文化を、津軽の郷土食を継承するグループ「津軽あかつきの会」のみなさんに教わった。

漬物天国な津軽の食卓

津軽の郷土食には発酵食品が多い。 JR 青森駅を降りて徒歩数分のところにある「青森魚菜センター」は、ご飯を盛ったどんぶりを片手に市場の中を徘徊し、好きな具材をその場でのせて食べられる「のっけ丼」で有名だが、よくよく目を凝らすと、つい手を伸ばしがちなきらびやかな魚介類に混じって、実は漬物の種類がバラエティに富んでいることに驚く。みず、さもだし、根曲がり竹など、この地域ならではの食材を使ったものも数多くある。塩漬け、味噌漬け、麹漬けなど、作り方も味わいも様々だ。

青森県の中でも津軽地方は、南部や下北半島と比べて昔から米が比較的よくとれたため、米や麹を使った発酵食品も多い。特に津軽でしか見かけない、全国的にも非常に珍しい発酵食品の一つに「すしこ」(赤すし、赤めしとも言われる)がある。これがなんとご飯の漬物なのである。地元のスーパーや道の駅などでも売っており、鮮やかなピンク色に目が釘付けになる。蒸したもち米に、赤じそやキャベツ、きゅうり、みょうがなどの野菜を混ぜて、乳酸発酵させる。飯寿司のようでもあるが、魚は入っておらず、純植物性の発酵食品。他の漬物や飯寿司と比べても、ご飯の分量が多いことが特徴である。津軽の中でも主に西北地方で作られており、甘酸っぱいさっぱりとした風味で、冬の保存食として、ご飯のおかず(ご飯でご飯を食べる⁉)に重宝されてきた。

津軽あかつきの会は弘前市石川地区にある。そこでつくられる発酵食品は農作物の収穫期や魚の旬に合わせて、仕込みの時期がだいたい決まっており、年間のスケジュールがある。特に秋から冬にかけては忙しく、厳しい冬を越えるために、秋に食べきれないほどたくさん実った農作物を干す、塩蔵するなどし、それをさらに味噌や麹に漬けて貯える。発酵は、食材の保存性を高めると同時に、微生物の力によって奥深い旨みが引き出され、栄養価を上げることが大きなメリットだが、深い雪に閉ざされる津軽の寒い冬は、食材を腐らせず、静かにじっくり発酵・熟成させるのにもってこいの気候なのである。

津軽っ子のソウルフード、毛豆

津軽地方を中心に栽培される在来種、毛豆。名前の通り、さやや茎、葉などが、一般的な枝豆よりも長い茶褐色の毛にびっしりと覆われている。豆の粒が大きく、栗のようなほっくりした深い甘みがある。晩生で、9 月下旬から 10 月上旬くらいの短い期間に収穫される。元々は農家が自家用につくっていたため、あまり県外に出回らなかったが、最近は若手の農家が販売促進に力を入れ、食べ比べイベントなども行われている。茹でただけでも十分においしい毛豆だが、これを塩で漬けると乳酸発酵して甘酸っぱさが加わり、複雑味のある独特な味がクセになる。毛豆シーズンの 9 月下旬頃に漬け、正月過ぎから食べられるが、 3 月頃まで漬けた古漬けもおいしい。現地の居酒屋でも時々見かけることがある。

塩水に漬けて約1週間経った状態の毛豆。発酵が始まり、少し泡が出ている。昔から農家ではたくさん収穫された毛豆を冬の保存食として漬物にしていた。

材料

毛豆(なければ枝豆)……適量
塩……適量
水……適量
唐辛子……お好みで

※ 通常は毛豆の重量に対して20%の塩。早めに食べたい場合は塩を10%にする。
※ 塩10%で作った場合は、浅漬けとして2週間後くらいから食べられる。20%のものと比べると日持ちしないので注意。

作り方

  1. 毛豆を洗って塩(分量外)で揉み、沸騰した湯に入れて3、4分、そのまま食べるときより気持ち硬めに茹でる。
  2. 樽の中に塩をふり、毛豆を敷き詰め、また塩ふり、と何回かに分けて交互に行う。好みで唐辛子を入れる。
  3. 豆がひたひたになるまで水を注ぐ。
  4. 豆が浮かばないよう中蓋をして、その上に重石をのせる。
  5. 冷暗所で保存する。3ヶ月過ぎた頃から食べられる。
    ※食べるとき、もし塩が強い場合は少し水に浸けて塩抜きしても良い。

text 江澤香織 photo 船橋陽馬

本記事は雑誌料理王国2020年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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