暑い季節に恋しくなる、のどを潤す酸味やさわやかな香り。夏になると街じゅうあちこちにレモンを使ったドリンクやお菓子が登場し涼を呼ぶが、酸味や香りが魅力の果実は、実はレモンだけではない。
果汁や果皮を調味に用いる「香酸柑橘」の仲間は、 すだちやかぼすを筆頭に、日本ならではの個性的な種類も数多く存在する。国産柑橘のトップシーズンは冬~春だが、香酸柑橘はこれからが旬。定番からレア品種まで、15種をご紹介しよう。
スーパーでも手に入り使いやすいおなじみの香酸柑橘。一般的に名が知られる「レモン」や「ライム」にも多くの品種が存在し、それぞれ特徴が異なる。
年間を通して外国産が出回り、10月~3月ごろまでは国産も登場する。輸送の都合で完熟前に収穫する外国産は酸味が鋭い傾向であるのに対し、国産は糖度が比較的高く、まろやかな味わいであることが多い。
秋口に出回るグリーンレモンは果実が青い状態で収穫したもので、 国産ならでは。スパイシーな香りと酸味が魅力だ。
選び方
丸みの強い果実は果汁量が豊富。果汁を搾って使いたいときには丸いものを、果皮をマーマレードなどに使いたいときは、両端が長く大きい果実を選ぶのがおすすめ。果皮の表面に茶色いかさぶた状のキズや、黒い点々があっても中身には影響がない。
代表的な品種
リスボン
ポルトガル原産で、寒さに強く、日本で広く栽培される。ラグビーボールのような形。
ユーレカ
アメリカ・カルフォルニア原産で、世界中で栽培される品種。果肉が柔らかくジューシー。見た目はリスボンによく似ている。
マイヤーレモン
レモンと、オレンジまたはマンダリンの自然交雑種といわれる。酸味や香りがまろやかで、果肉を食べることもできる。国内では三重県などで栽培。
特徴的な品種
璃の香
「リスボンレモン」と「日向夏」を交配させて誕生した品種。果肉がぎっしり詰まっていて、果汁が豊富。一般的なレモンほど尖りのない香り。
菊池レモン
戦前、北マリアナ諸島から八丈島や小笠原諸島に導入された品種。 「マイヤーレモン」の一種で、酸味が弱く、独特な香りがある。八丈島では完熟の果実を皮ごと生食用としている。
エスニック料理と相性の良いライムは熱帯地域に起源を持つ柑橘。
日本での栽培はわずかだが、9月~10月には国産も流通する。
選び方
果皮の表面が滑らかで、油胞のキメが細かいものがベター。
代表的な品種
メキシカンライム(キーライム)
もっとも一般的なライム。果皮が滑らかで強い芳香と酸味が特長。日本で出回るライムのほとんどを占め、メキシコから輸入されている。
タヒチライム
メキシカンライムよりも大玉のライム。果肉が柔らかくジューシー。
フィンガーライム
オーストラリアに起源を持つ柑橘。イクラのような丸いさじょうを持つことから、フルーツキャビア・キャビアライムなどとも呼ばれ、料理人から高い注目を集めている。
徳島県で古くから親しまれた特産品で、今では全国各地で生産されている。果汁の香気成分が多く、魚との相性が抜群。ハウス栽培や貯蔵技術により通年出荷体制が整っているが、露地栽培の果実は8~9月に流通する。
大分県で古く薬用として栽培されていた果実が、やがて全国区に。
まろやかな酸が特長で、どんな料理とも調和する。露地ものの旬は8~10月だが、すだち同様に通年出荷体制が整っている。
ゆずが成熟する前の青い状態で収穫されたもの。香り高い果皮や果汁は料亭などで重宝されるほか、青唐辛子と合わせてゆず胡椒の原料にもなる。流通時期は9~10月ごろ。
国内には、ある地域でしか栽培されていない香酸柑橘が各地に存在する。その多くが500年ごろ大陸から日本に渡来したゆずから分化したもの。それらは庭先柑橘として自家消費され、地元の食文化とも結び付いて地域の中で脈々と受け継がれてきた。情報・流通網の発達により少しずつ全国にもその名が知られるようになってはいるが、めったにお目にかかれないレア品種も多い。
入手方法
どれも生果の流通は僅かだが、 比較的気軽に手に取れるのが瓶入りのストレート果汁。インターネットや各県アンテナショップで購入できるケースが多い。
熊野市の天然記念物、「ヤマトタチバナ」の変異種として発見された。地元では、昔からアジやサンマなどの焼き魚に生果汁を搾って使われている。 流通時期は10月~11月。
山口県萩市で約250年前から庭先柑橘として栽培されていた。
まろやかな酸味で醤油との相性が良いとされ、刺身の醤油に果汁を加える食べ方が親しまれている。8~10月が旬。
徳島県の山間部で栽培される香酸柑橘。糖度が高くまろやかな味わいで、地元では「香りゆず、酸味すだち、味ゆこう」といわれてきた。果汁として利用されることが多い。11月下旬ごろから収穫される。
広島県因島に起源を持つ。「田熊スダチ」が正式名称だが、魚商人の直七が魚といっしょに売り歩いたことから高知県ではその名で呼ばれるようになった。クセのない上品な香りが特長。10月ごろに出回る。
四万十川流域で「酢みかんの王様」として愛される香酸柑橘。正式名称は餅柚(もちゆ)。観賞用の柑橘「仏手柑」と区別するため、丸仏手柑とも呼ばれる。
四万十地域では「シンコ(宗田鰹の稚魚)の刺身にはぶしゅかん」がスタンダード。流通時期は9~10月ごろ。
玄界灘に浮かぶ馬渡島の固有種。起源は謎に包まれており、一説では隠れキリシタンが住んだこの島の歴史から、宣教師が持ち込んだものともいわれている。香りが強くほのかな甘味もある。出荷時期は11~2月ごろ。
長崎市の土井首地区・外海地区にわずかに自生する柑橘で、地区の歴史からキリシタンが伝えたと言われる。甘味があり、地元では果汁を飲んだり、海産物に合わせたりして親しまれてきた。10~3月ごろに出荷される。
発見者の名前をとった「平兵衛さんの酢みかん」が名前の由来とされる。発祥の日向地域では娘が嫁ぐ際にへべすの苗木を持たせる習わしがあり、それによってへべすが庭先柑橘として普及したという。種が少なく、果汁を搾りやすい。流通時期は8~10月。
肝付町・南大隅町の辺塚集落に古くから自生する固有種。地元では酢の代用としたり、芋焼酎に果汁を搾ったりして親しまれてきた。果皮が薄く、ライムのような独特の香りがある。出荷時期は8~10月ごろ。
南西諸島や台湾に自生する固有品種で、沖縄県の特産品。和名はヒラミレモン。
8~10月に出回る酸味の強い青切り果は香酸柑橘として調味用に、10~12月の果実は果汁用、12~1月に収穫される果実は生食用として活用される。
text 広井亜香里