幻の豚といわれる「千代幻豚」との出会いは偶然の産物でした。4年前の秋のこと。この年は、おいしいキノコと山菜に出会いたいと思い、信州(長野県)飯田に行きました。そこで、豚のしゃぶしゃぶを食べたんです。これが旨い。普通、鍋に豚肉のアクが浮くのに、なぜかとても少ない。肉質のきめが細かく柔らかい。豚肉の旨さは、脂身に凝縮されていると思っていますが、この豚の脂身は甘くて、とろけるよう。これはイケる、と確信しましたね。
この豚が「千代幻豚」と知って、唯一の生産者・岡本養豚さんから仕入れることにしました。亡きお父さんの岡本陸身さんが年もかけて、戦前に養豚されていた幻の豚を復活させ、品種改良を重ねて作り上げたそうです。今は娘さんが引き継いでおられますが、なかなか手に入らない。僕は一回に半頭仕入れます。
「千代幻豚」との出会いは偶然の産物でした。4年前の秋のこと。この年は、おいしいキノコと山菜に出会いたいと思い、信州(長野県)飯田に行きました。そこで、豚のしゃぶしゃぶを食べたんです。これが旨い。普通、鍋に豚肉のアクが浮くのに、なぜかとても少ない。肉質のきめが細かく柔らかい。豚肉の旨さは、脂身に凝縮されていると思っていますが、この豚の脂身は甘くて、とろけるよう。これはイケる、と確信しましたね。
この豚が「千代幻豚」と知って、唯一の生産者・岡本養豚さんから仕入れることにしました。亡きお父さんの岡本陸身さんが25年もかけて、戦前に養豚されていた幻の豚を復活させ、品種改良を重ねて作り上げたそうです。今は娘さんが引き継いでおられますが、なかなか手に入らない。僕は一回に半頭仕入れます。
「千代幻豚」は、脂身が格別。そこで皮つきのままのロースを分厚く切って40分ほど気長に焼いた「千代幻豚のロティ ワイルドライス添え」を新しいメニューに加えたところ、お客さまの評判がじつによい。4年前からこのひと皿も、「イワシとジャガ芋の重ね焼き」などのように僕のスペシャリテに加わりました。
僕を触発してくれる勢いのある食材に出会うことは、興奮するほどうれしい。これぞ、と思った食材に素直に向き合い、その食材と格闘して、新たなメニューを作り出す。それをお客さまにお出しして、喜んでいただければ、やがてスペシャリテとなる。まさに料理人冥利につきますね。「ラードの薫りがする」。34年も前のことですが、初めてパリのシャルル・ド・ゴール空港に降り立ったとき、僕はそう感じました。日本とは異なるあの薫りと、「フランス料理の本場に着いたんだ」と身が引き締まるような感覚を、今でも忘れることはできません。フランス料理の技法を自分のものにして日本に帰ったら、屋台を引いてもいい。僕のパティや煮込みを食べていただきたい。僕の青春はこの一心で貫かれていました。
そして1986年、36歳のときに、ここ、地下鉄・表参道駅から10分ほどの青山学院大学の横手に「ラ・ブランシュ」を構えました。世の中はバブルの少し前。40以上の物件を見て回って、小さなビルの階段を上がったこのスペースが気に入りました。この辺りは、パリの学生街の裏通りみたいな落ち着いた雰囲気でしょ。
とはいえ、当初1カ月分の家賃しか現金はない。無鉄砲といえば無鉄砲ですが、それでも即決しました。1カ月間はここをわが城として、自分の考える、自分の感じる料理をお客さまにお出しできるのだ。その喜びは何にも変えがたかった。じつは僕の店は、そんなスタートでした。
それから27年――。福島県川俣町で育った僕の脳裏には、家の庭で育てていたシャモ、山羊の乳、母の作ったトマトやキュウリ、井戸で冷やしたスイカなど、故郷の味わいが刷り込まれている。僕の味覚の根っこにある、この感性を大切にしながら、「田代の料理」を作ってきました。
ひと皿に全力を注ぎ、一日を燃焼する。そして、これからも「千代幻豚のロティ」のような自分らしいスペシャリテを創造していきたいですね。
材料
千代幻豚(ロース)…160g /ワイルドライス(リ・ソバージュ)…150g /ベーコン…30g/ニンジン、セロリラブ、タマネギ…各50g/トマト…2個/ニンニク(みじん切り)、エシャロット(みじん切り)、オリーブオイル、シェリービネガー、エストラゴン、パセリ、ブイヨンドヴォライユ…各適量
作り方
ラ・ブランシュ
東京都渋谷区渋谷2-3-1 青山ポニーハイム2F
03-3499-0824
● 12:00~14:00LO、18:00~21:00LO
● 水、第2・4火休
● 18席
長瀬広子=取材、文 依田佳子=撮影
本記事は雑誌料理王国第226号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第226号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。