決して表舞台に、私たち客人の前に姿を現すことがないまかない。しかし、料理人にとって腕や知識、センスを磨くため、自身のイメージとアイデアを具現化するため、何よりも一日の活力の源になる特別な料理がまかないである。
オリジナルのまかないをテーマに、思い出の料理や修行先でのエピソード、限られた時間内で効率よく作るための工夫、献立選びの秘訣とともにレシピをご紹介。教えてくれたのは、2018年よりミシュランガイド東京で一つ星を維持する「La Paix」のオーナーシェフ・松本一平さん。
東京は日本橋、大通りを一本入ったビルの地下1Fに店を構える「La Paix」。クラシックなフランス料理に重きを置きながらも、今の時代の空気感や全国各地の生産者から届く、日本の四季と風土をたっぷり蓄えた食材の個性を柔軟に活かす一皿をコースとしてふるまっている。また、オーナーシェフの松本一平さんが手がける料理は、和の要素が+αされることでも有名だ。
おでん割烹店を営む実家で育ち、ベルギーでの修行前と後には店で働いていた経験もあり、和食や出汁に関する知識と技量が身についているのは自然なこと。加えて、修行先のベルギーで出会った各国の料理人に「どうして自分の国の料理ではなく、フランス料理を学ぶのか?」という問いに気づかされたこともあり、日本ならではの料理と味を強く意識しするようになった。「日本のガストロノミーを発信していく」。その想いをより濃く反映させた数々のフランス料理は、素材の息づかいまで聞こえてきそうな、ここにしかない味と巡り合う。そんな一品を生み出し続ける松本さんが手がけるまかないとは、一体どんなメニューだったのか。
奈良県内の洋風懐石を提供するレストランからはじまり、「ヴァンサン」(東京・六本木)、ベルギーにあるミシュラン一つ星店「レッソンシェル」(ナミュール)、「オー・グー・ドゥ・ジュール」(東京・麹町/現在は閉店)、「オー・グー・ドゥ・ジュール・メルヴェイユ」(東京・日本橋)と食通を惹きつけて止まない名店に勤め、まかない担当も経験してきた松本さんは、「お店によってまかないのルールは違いますけど、料理人として“試される料理”というのは共通してあると思います」と話す。まかない作りだけが仕事ではないため、下準備や調理はおのずと仕事と仕事の合間に素早く、段取りよく行う必要がある。作り置きはNGで、まかないを出す時間も厳守。
「ヴァンサン」時代は、シェフとスタッフが食事をする時間、メニューも違っていたため、シェフのために作るまかないは毎回緊張感があり、いい経験になったと振り返る。ベルギーでの修行時代は、日本料理に興味を持つスタッフのため、現地の食材と調味料を駆使してオムライスや親子丼、照り焼きソースを使ったまかないを作り、とても好評だったそう。白菜の漬物を使ったフリカッセが、生まれたのも日本ではなくベルギーだ。和歌山県の実家から定期的に送ってもらっていたレトルトの米、日本食材の中にあったのが白菜の漬物。何の気なしにクリームソースに入れたところ、偶然にもピタリと味がハマる。ありものの食材で簡単に作れる、洗い物を増やさないようにひとつのフライパンで火入れができる、なおかつ美味しい。フランスの郷土料理に、和の要素が含まれたオリジナルのフリカッセは、まかないという枠を飛び越え、現在では料理教室の人気レシピとして作り続けられている。
「La Paix」で、毎日食べられているまかないは、フランス料理というわけではない。その日ある食材で、作るスタッフの判断で和洋中さまざまなジャンルの料理が並ぶ。「『フランス料理以外は作らせない』というお店もありますが、どんなカテゴリーでも基本は同じ。それにいろんな料理を食べたいですしね」と笑う松本さん。
作る側から食べる側へと立場が変わっても、一貫して持ち続けているまかないの心得がある。段取りよく、無駄なく、時間通り、美味しく作る。「まかないだから」ではなく、「まかないだからこそ」きちんと作らないとお客様に出せる料理は作れない。そして、自分たちが「美味しい」と心の底から思える料理を毎日食べていないと、食べた人に響く本物の料理にはたどり着けない。まかないは、自分の実力を映し出す合わせ鏡のような存在だと話してくれた。
・フリカッセ
鶏モモ正肉(一口大にカット)…250g
塩…少々
白こしょう…少々
小麦粉…7g
ベーコン(短冊切り)…50g
ニンニク(みじん切り)…2g
タマネギ(みじん切り)…15g
白菜の漬物(一口大にカット)…200g
A
牛乳…200g
生クリーム…150g
・バターライス
米…1合
チキンブイヨン…200cc
塩…少々
こしょう…少々
ローリエ(小さめ)…1枚
パセリ(みじん切り)…適量
B
バター…10g
タマネギ(みじん切り)…10g
ニンニク(みじん切り)…2g
(1)鶏モモに塩と白こしょうをする。
(2) 小麦粉を薄くまぶしていく。
(3)中火にかけたフライパンにオリーブオイルを適量ひき、鶏モモの皮面から軽く焼き色をつけていく。焼き色がついたら、途中弱火にして裏返す。
(4)鶏モモ全体に焼き色がついたらベーコン、ニンニクとタマネギの順番で加える。うま味と香りを引き出すため、それぞれの食材に分けて炒める。
(5)再び中火にし、すべての食材を混ぜ合わせた後、濃度をつけるために小麦粉を加える。
(6)Cを流し込み強火へ。グツグツと沸いてくるのを待つ。
(7)白菜の漬物、漬物から出る汁も一緒に入れ、5〜6分程度弱火で煮込む。仕上げは、白こしょうで味を整える。
(8)弱火と中火の中間で熱した鍋でBを炒め、香りが出たら洗っていない米、塩こしょうを加えて混ぜ合わせる。
(9)強火にしチキンブイヨン、ローリエを加える。ローリエの代わりにセロリの葉を使うのもおすすめ。おこげがつかないように鍋底から米を混ぜる。チキンブイヨンが沸いたら火を弱め、蓋をして12分。さらに火を止めて10分蒸らす。
(10)深皿にバターライスとフリカッセを盛り付け、最後にパセリをふりかけて完成。
La Paix
東京都中央区日本橋室町1-9-4 B1F
TEL 050-3196-2390
●11:30〜13:00LO、18:00〜20:00LO
●木休、不定期で月2回休
●20席(半個室あり)
https://lapaix-m.jp/