L’ARCHESTE/食べ手の心に残る料理で、感動してもらうことが自分の生きる価値


フランスで活躍する日本人シェフを紹介する新連載。第一回目は、パリで独立、銀行からの融資を契約直前で断られ、個人融資でレストランをオープンしたパリ16区「L’ARCHESTE」の伊藤良明さんをご紹介します。

16区にレストラン「L’Archeste」をオープンして2年と3カ月。初年度にしてミシュランの1つ星を獲得し現在も維持しているが、「現状にはまったく満足していない」と言い切る。調理専門学校卒業後、日本で「ひらまつ」に入社。8年間経験を積んで同社のパリ店に移り、シェフを務めた期間も含め10年間働いた。

「30代半ばに差し掛かった頃、自分にとって大事なことは何かと考えるようになって。お金じゃない。料理人として食べ手に感動を与え、喜んでもらうことこそが価値だという結論に達しました」。ならば、自分の本当にやりたいことを試してみようと、独立の準備を始めた。独立開業への道はもちろん簡単なものではなく、特に資金の調達には苦労した。「(今の店舗の)契約直前になって銀行からの融資が受けられないことがわかり、知人などから個人融資を受けられる人を探しました。今後のプランや返済計画などを考え出した上で、丁寧に説明し、納得してもらう。時間もなく、それは必死でした。5日間一睡もしなかった。結果、1週間で5000万円以上が集まり、開店することができました」。 

何よりも食材を優先するのが伊藤さんの料理。料理代のうちの原価率はかなり高いと言う。「10年以上かけて得た、野菜、肉、魚などの優れた生産者とのつながりは貴重です。彼らの食材は手がかかっているので決して安くはないですが、安全で味も良く、それだけの価値があります。惚れ込んだ素材の良さを活かし、引き上げていくのが自分のすべきこと。料理を通して、素材の素晴らしさを食べ手に発信していきたい」。

しかし現時点では、オープン前に自分がやりたいと思っていたこと全ては実現できておらず、「まだまだ道半ば」だという。店の力をさらに強め、これからもお客様の喜ぶ顔を見続けたいと語った。


取材・文=吉田 恵理子 ワイン&フードライター。コピーライター。
1975年生まれ、フランス・パリ在住。お茶の水女子大学博士前期課程修了、人文学修士(西洋哲学)。都内の広告制作会社を経て、コピーライター、ライターとして独立。フランス国立ランス大学HEG(美食に関する最先端研究機関)に留学。英国ワイン&スピリッツ教育財団(WSET)アドヴァンスト資格所持、英国酒ソムリエ・アソシエーション(SSA)認定酒ソムリエ。著書に『ランチタイムが楽しみなフランス人たち』(産業編集センター)、『ワインを飲めばすべてうまくいく 仕事から恋愛まで起こる10のいいこと』がある。ワイン専門誌、パリの日本語新聞「オヴニー」に寄稿。Twitter:@erikomri_wine

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