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【飲食店の法律相談所 #8】雪の日にお客さまが店内で転倒。すべて店が悪いのでしょうか?


Q.雪の日にお客さまが店内で転倒。すべて店が悪いのでしょうか?

イタリアン・バルを経営しています。今年は暖冬ですが、年によって、雪が降る地域に店があります。路面店のため、入り口から雪が多少吹き込んでしまうこともあります。先日、雪が店内に吹き込み、床が滑りやすくなっていたところに、いらしたお客さまが滑って転倒しました。腰を打ってけがをしたとのことで、治療費や慰謝料などを請求されています。しかし、お客さまの方も、滑りやすい靴を履いており、それも原因ではないかと思うのですが、治療費も慰謝料も支払わなければいけないのでしょうか。また今後、どのように対策すればよろしいでしょうか。
(40代 イタリアン・バルオーナー)

A.店内の設備自体に危険性があったかどうかが、責任の分かれ目です

店内で起きる事故は多岐にわたりますが、もっとも多いのが転倒事故です。店舗内事故の7割が転倒事故という消費者庁のデータもあります。実際に裁判になったケースでは、多額の損害賠償が認められたケースもありますので、注意が必要です。

実際に損害賠償責任が認められるかどうかは、具体的な事情によるので、なかなか見通しが難しいですが、裁判例が重視しているのは、(1)転倒するような危険な状況だったり、事故を予見できる状況ではなかったか (2)事故を防ぐ義務があったか (3)客側に過失があったか、の3点です。

アイスクリームをこぼす可能性

具体的な例として、ショッピングセンターでアイスクリーム売り場前を歩いていた女性(当時71歳)が、床に落ちていたアイスクリームに足を滑らせて転倒し、後遺症が残る大けがをしました。これは、店として、アイスクリームがこぼれれば、床が滑りやすくなることは予測できた。さらに当日は特売日でいつもより床が汚れることが予想されていた以上、清掃や巡回を強化すべきだという理由で、860万円の請求が認められました。一方で、被害女性がショッピングカートを押していて、床が見えにくかったことも原因ということで、被害女性側に2割の過失が認められています。

逆に、請求が認められなかったケースもあります。百円ショップで、雨天で床が滑りやすくなった店内を通行中の客(当時約50歳)が足を滑らせて転倒。後遺症が残ったとして、約6000万円の損害賠償を請求しました。しかし、この店の床材は、コンビニエンスストアなどで一般的に使用されているもので、とくに経年劣化が進んでおらず危険な状況ではありませんでした。また、店の出入り口に2枚の床マットを設置して転倒予防の措置をしていたことなどを理由に、請求は認められませんでした。

ポイントは、対策を講じていたかどうか

これらの事例をまとめると、対策すべき傾向が見えてきます。まず、店内の設備自体に危険性がないかどうかです。床材は一般的なものか。経年劣化していたり、破損したりしていないか。在庫や備品を置いていたり、段差・くぼみなど、つまづきやすい場所はないか。食べ物や飲み物などが落ちやすく、滑りやすくなることの多い場所はないか、などといった点です。

また、設備上問題がなかったとしても折々の状況によって、危険な場所が出現することがあります。典型的なのは雨や雪などで、一時的に、床に極めて滑りやすい状況が発生する場合です。今回のケースでは、滑りにくい床材を使用していたか(少なくとも同地域で多く用いられているレベルのもの)、出入口に床マットを敷いていたか、雪が吹き込まないような対策をしていたかが、ポイントになると思います。

また、以前にも転倒しかけたような事例があれば、店の責任は認められやすいので、早めに対策を講じた方がよいでしょう。

飲食店専門弁護士 石﨑冬貴
1984年、東京都生まれ。神奈川県弁護士会会員。横浜パートナー法律事務所所属。飲食店法務を専門的に取り扱うほぼ唯一の弁護士。著書に『なぜ、飲食店は一年でつぶれるのか?』(旭屋出版、2018年)がある。

本記事は雑誌料理王国2019年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2019年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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