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【飲食店の法律相談所#6】オーナーがお店を辞めさせてくれません


Q. オーナーがお店を辞めさせてくれません

 イタリア料理店の料理長を4年務めています。入社当時から独立を考えていましたが、最近、あまりに激務で労働環境も悪いため、独立を検討するようになりました。そこで、先日、独立のための退職を申し出たのですが、﹁後任もいないので、今やめられては困る。無理やり辞めたら損害賠償を請求する﹂と言われてしまい、辞めさせてもらえません。

 また、すっかり忘れていたのですが、入社時に書いた誓約書に、「3年間は近隣で同業を営まない」という言葉も入っていたようで、オーナーからはそのことも指摘されています。

 今年40歳になりました。時期を考えても1年でも早く退職して独立したいと考えています。会社を辞めるにはどうしたらいいでしょうか。また、飲食業界で、3年も同業を禁止するような約束は有効なのでしょうか。
(40代 イタリア料理店料理長)

A. 退職を伝えれば2週間で辞めることができます

 飲食店では、のれん分けや独立の話を避けて通れませんが、そこにはトラブルもつきものです。外食産業はハードワークですから、最近では、自分で労働環境をコントロールできるように独立するという方も増えています。

解雇はできないが退職は自由

 まず、前提として、解雇は労働契約法という法律で制限されており、会社は「客観的で合理的な理由」がなければ従業員を解雇できませんが、退職は自由です。退職するのに理由は必要ありませんし、時期の制限もありません。

 民法では、解約の申し入れ、つまり、退職の連絡をしてから、2週間後に雇用契約は終了するとされていますので、退職を表明すれば2週間後には辞められるということになります。

 そのため、従業員を辞めさせないために、「辞表は受け取らない」という経営者もいます。しかし、辞表自体、法律上、退職に必要な条件とはされていません。つまり、辞表が受理されなくても「解約の申し入れ」は成立しますので、辞表は無理やり置いてくるか、メールなどでも構わないということになります。最近では、退職を言い出せない人のために、退職代行サービスというのもあるようです。

就業規則は守ろう

 しかし、就業規則などで、1カ月前に通知するような定めが置かれている場合もありますので、その場合はその手続きに従ってください。もちろん「1年前通知」や、「上司の許可が必要」といった不合理な定めがされている場合、その定めは無効です。

 今回の相談者の方のように、辞める意思が固まっているのであれば、それを伝えれば、許可がなくても退職できます。

「何の通知もせずいきなり来なくなる」とか「辞めることを決めていながら自分目当てのお客さんの予約を受けておいて、すぐに退職する」といった害意のある場合でない限り、損害賠償請求が認められることもありません。

また、レシピやメニューなど、ノウハウを重視しているお店ですと、競業(同業)の禁止を求められることもありえます。飲食の場合、事前に約束していなければ、ほとんど気にする必要はありません。

ただ、入社時に誓約書を書いている場合、ある程度その内容に拘束されることは避けられません。3年は長いにしても、仮に裁判となった場合、一定程度の期間は有効と認められる余地があると思いますが、地域が限定されているかによっても大きく変わります。同じ町内で禁止というのと、県内はすべて禁止というのでは、不利益の程度がまったく違うためです。

 オーナーが現在の顧客を守りたいという気持ちも理解できますから、商圏や業態が被らないように調整し、お互いに共存できる方法を考えてみてください。

飲食店専門弁護士 石﨑冬貴
1984年、東京都生まれ。神奈川県弁護士会会員。横浜パートナー法律事務所所属。飲食店法務を専門的に取り扱うほぼ唯一の弁護士。著書に『なぜ、飲食店は一年でつぶれるのか?』(旭屋出版、2018年)がある。

本記事は雑誌料理王国2019年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2019年2月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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