仕上がりの旨さは下処理で決まる。ソースはライチョウの旨味だけを凝縮する。滝本将博さん(ラ・ブイオグラフィ)


「ジビエの魅力は、素材の個体差が大きいこと。状態によって料理を変えます」と、滝本将博さん。例えばライチョウなら、丸焼きにすることもあれば、部位ごとに違う調理を盛り合わせることもある。「和牛のように安定した素材は、どう料理しても旨いですが、ジビエはそうはいきません。そこがおもしろいんです」

滝本さんは「仕上がりの質は下処理で決まる」と言い切る。まずは毛をむしり、産毛を焼き、残った細かい毛も1本ずつ抜く。部位を分けたら、境目にあるスジや薄皮を取りきる。見落としがちな部分だが、これをするとしないとでは、最終的な香りやクセに大きな差が付く。「臭いのがジビエだという考え方もありますが、僕はそうは思いません。旨味だけを味わっていただきたいので、臭みの元は丁寧に取り除きます」

きれいに処理したムネ肉をフォワグラと合わせて、デュクセルとともに、ホウレンソウで包む。87度の低温で優しく加熱すれば完成だ。

ソースは滝本さんいわく「これぞジビエの醍醐味」の、内臓ソース。元となるキュイッソンを数滴なめただけでも、その強烈な旨味とクリアな香りは衝撃的だ。しかも余韻が長く、舌と鼻の奥からいつまでもライチョウの香りが消えない。「ザッツ・ジビエでしょ」と、笑う滝本さん。これとライチョウの肝臓、心臓、血を煮すぎないように合わせた、このソースが旨くないわけがない。

一軒家をモダンにリノベートした店。席からは中庭が眺められる。

本場で覚えたジビエの扱いを
洗練させてひと皿に集結

モモ肉と砂ずりはコンフィにして、低温で香ばしくグリルする。「静かにゆっくり。ライチョウ自身が焼かれていることに気付かないぐらいにね(笑)」肉にストレスをかけないことが加熱のポイント、と滝本さんは言う。

こうして、それぞれに神経を注ぎ最高の技を尽くした、ムネ、モモ、ソースが皿の上で共演する。繊細で贅沢なムネ、野趣味あふれるモモ。どちらも一切の雑味がなく、ライチョウ特有の力強い旨味と香りだけが際立つ。ソースは、その旨味が凝縮され、一滴あたりの密度に驚愕さえ覚えるポテンシャルの高さ。まさに洗練の極みと言えるひと皿だ。

「僕のジビエ料理は、フランスの田舎・アルベールヴィルで学んだことがベースになっています。生活に根ざしたジビエは、日本では体験できません」。この冬はヒグマが入手できそうだ、と嬉しそうに話す滝本さん。心からジビエを愛し、的確な調理で見事な皿に仕立てる腕は、すべてのジビエ料理で発揮されている。

「ライチョウのアビヴェール」のここがポイント

スジや薄皮を丁寧に除去

直火に当たらない身の内側は、ちょっとしたスジや薄皮が臭みのもとになる。部位の間のスジ、ささ身の薄皮などを丁寧に取り除くのが、すっきりとした旨味だけを残すコツ。あとは熱湯を回しかけたホウレンソウに、デュクセルをナッペしたライチョウ、フォワグラのポワレをのせて巻き、加熱する。

低温で香ばしく焼く

2、3時間かけてしっかりと塩抜きしたモモ肉と砂ずりは、87℃の低温で3時間加熱し、コンフィに。再加熱するときは、100℃以下の低温グリヤードで、静かにゆっくりと火を入れてゆく。肉にストレスを与えず「焼かれていることに気付かれないように、そっと焼く」ことが旨さの秘けつ、と滝本さん。

ジビエの味は下処理で決まる。臭みのない旨さこそ醍醐味です

雷鳥とフォワグラのアビヴェール
ヴァニラが香る柿のムースリーヌ
ホウレンソウで包んだムネ肉には、フォワグラで脂肪分を、キノコのデュクセルで香りをプラスする。モモ肉と砂ずりはスパイス類に漬け込んだ後、3時間かけてコンフィする。同じ個体とは思えないほど、味も食感も違う2種の料理に、雑味のないクリアな内臓ソースを添えた。柿の甘さでほどよくリズムが付き、ジビエの醍醐味を堪能できるひと皿。

材料
ライチョウ…1羽/フォワグラ…1個/ホウレン草…6枚
◦コンフィ
岩塩、ニンニク、クローブ、アニス、ジュニパーベリー、黒コショウ…各少量/オリーブオイル、タイム…各適量
◦デュクセル
エシャロット、ニンニク、タマネギ、マッシュルーム、生クリーム、コニャック、塩、コショウ…各適量
◦ソース
ミルポワ(ニンジン、セロリ、タマネギ、ニンニク)…適量/黒コショウ、クローブ、コリアンダー…各少量/生クリーム、コニャック、ビネガー、塩、コショウ、バター…各適量
◦ガルニチュール
ジロール茸…3個/水、バター、塩…各少量/柿…適量/バニラ、アマレット…各少量
◦盛り付け
ナツメヤシとビネガーを煮つめたシロップ、リーフ野菜…各少量

作り方
1.ライチョウをさばき、モモ、コッフル、内臓に分ける。血は絞っておく。
2.砂ずり、モモのコンフィを作る。オリーブオイル、タイム以外の材料に半日ほど漬け込んだ後、2~3時間かけて、舌に塩を感じない程度まで塩抜きする。オリーブオイル、タイムとともに真空パックにして、87℃のコンベクションオーブンで3時間ほどコンフィにする。
3.コッフルはフライパンで焼き目を付けて、皮を取り、ささみを付けたままのムネ肉とガラに分ける。ムネ肉の薄皮や筋を丁寧に取り除く。
4.デュクセルを作る。みじん切りにしたエシャロット、ニンニク、タマネギを色付かないように炒めて、みじん切りにしたマッシュルームを加えてさらに炒める。生クリーム、コニャック、塩、コショウで味をととのえる。
5.ホウレン草はキッチンペーパー2枚で挟んで熱湯を回しかけ、ラップの上に広げておく。
6.フォワグラはポワレにして冷ましておく。
7.ムネ肉の身の側に4を大さじ2ほどナッペして6を置く。これを5にのせてラップごときっちりと巻く。竹串で2箇所ほど空気穴を開けて、87℃のコンベクションオーブンで7~8分加熱する。
8.ソースを作る。ライチョウの心臓、肝臓、血をミキサーにかけてピュレにする。コニャック、ビネガーを加える。
9.ガラとミルポワを炒め、水を加えて煮出したクリアなジュを作り、調味料を加える。煮つめてから生クリーム、コニャック、ビネガー、塩、コショウで味をととのえて、いったん冷ましておく。
10.8と9を合わせて火にかけ、とろみをつけてゆく。一度パッセしてからバターでモンテする。
11.ガルニチュールを作る。ジロール茸は少量の水、塩、バターとともに鍋に入れ、軽く加熱しておく。
12.柿はバニラとアマレットとともにコンポートして、ミキサーにかけておく。
13.2のモモと砂ずりを100℃以下のグリアードで表面がカリッとするまでゆっくり焼く。
14.皿に、ナツメヤシとビネガーを煮つめたシロップで半円を描く。10のソースを2箇所に丸く置く。端を落として2つに切り分けた7の切り口を上にして置き、端にソースをかける。片方の上に13のモモをのせ、リーフ野菜を飾る。11、12、13を置く。

Masahiro Takimoto

1964年京都市生まれ。スイス、フランスで研鑽を積む。ブライトンホテル浦安を経て、1993年よりブライトンホテル京都に勤務。レストラン「ヴィ・ザ・ヴィ」の料理長に就任後、京都初のミシュラン一ツ星を獲得。2011年独立開店。

ラ・ビオグラフィ…
La Biographie…
京都市中京区衣棚通御池下ル西側(長浜町152)
☎075-231-1669
●12:00~13:00LO、18:00~20:00LO
●月・火休
●20席(半個室~8席含む)
●コ ース 昼6500円~、夜15000円~(サービス料10%別)
http://la-biographie.info/

藤田アキ=取材、文 畑中勝如=撮影

本記事は雑誌料理王国244号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は244号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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