Mr. CHEESECAKE に見る、新しい時代の働き方。田村浩二さん


本誌2019年6月号の特集「多様な働き方」でも、ご登場いただいた「Mr. CHEESECAKE」の田村浩二さん。
店舗を構えず、それまでのレストランシェフで培った「商品開発力」を武器に、着々と活動領域を広げてきた。料理人の新しい働き方をいち早く提示した先駆けといっていいだろう。そんな田村さんの現在地と共に、見据えている今後のことを聞いた。

技術を生み出す場所はレストランでなくてもいい

技術を生かす場所を変えることで、世界は広がる。そう実感したという、田村浩二さん。2年で道標をつくったMr. CHEESECAKEのいま。

Mr. CHEESECAKE
週に2回、日曜と月曜の朝10時からオンライン限定で販売される、チーズケーキ。受付開始からものの10分で売り切れる人気 ぶりは、InstagramやTwitter などのSNSを中心とした口コミで広がっている。シェフの田村浩二さんのチーズケーキ好きが高じて誕生したこの通称「ミスチ」こと「Mr. CHEESECAKE」は、温度によって変わる味わいと香りを楽しめる。

料理は目的ではなく、手段。田村さんの根本にある想いとは

 なぜオンラインでチーズケーキだったのか。「Mr. CHEESECAKE」の生みの親、田村浩二さんは名だたるレストランで13年勤め、TIRPSEではシェフになって2年で、ゴ・エ・ミヨに選ばれるほどの腕前。独立するにもオーナーシェフとしてレストランを構える期待も高かったはずだ。

 「チーズケーキ、というか料理は、僕にとってあくまで手段です。それ自体が目的ではない。常に料理の先にいる一人の人を幸せにしたいと思っているので、レストラン時代といまとで、自分としては根本的に同じことをしている意識でいます」と田村さん。レストランというリアルな場で、お皿を選び、コースのパーツを決め、盛り付けを考えて料理をテーブルに出すことと、Mr. CHEESECAKEで、ウェブページをデザインし、ストーリーをひも解き、ケーキを作って、パッケージングして商品を手元まで届けることは、彼にとって地続きだ。

2月に都内で初のポップアップレストランを開催した。「リアルな場所でお客さまと関わる素晴らしさも知っているので、店舗をもつことも視野に試していきたい」(田村さん)。

 構想から2年という短期間でブランドを株式会社化し、Mr. CHEESE CAKEはいまや20人近くスタッフを抱える組織にまで成長した。

「シェフとしての技術を生かす場と方法を変えるだけで、こんなにも広がりをもてることを実感しています」

数ヶ月に一度、季節にあわせた限定フレーバーを販売する。

 Mr. CHEESECAKEでは、一貫してチーズケーキのひと商品しか扱っていない。しかし自分が本当に美味しいと感じるモノを作り続けられるからこそ見えてくる未来があるという。

 「強く変化が求められるフレンチでは、自分が至高と思うものでも前回と同じものをお出しすれば、『怠慢』と受け取られてしまいます。一方でいまは同じチーズケーキというモノを作り続けることで、クオリティを100点から101点、102点にするような日々。レストランをやるより将来がわからない分、チャレンジしがいがあります」

香りを大切にするMr. CHEESECAKEでは、ドリンクとのペアリング提案も積極的に行う。

 田村さんがフリーランスになった2018年頃に比べ、本誌巻頭にも登場する薬師神陸さんや森枝幹さんのように、新しい動きを模索するシェフは確実に増えている。この潮流とMr. CHEESECAKEの功績とは決して無関係ではないだろう。

 今後は体制を強化するとともに、グローバルでの展開も検討しているという。また店舗をもつことも視野に入れる。「従来の飲食店と同じことをしても仕方がないので、働くスタッフにも無理がない仕組を慎重に検討しています」と田村さん。飲食業界に新たな道筋を示した田村さんの次なる一手を、引き続き注視したい。

田村 浩二
1985年、神奈川県三浦市生まれ。新宿調理師専門学校卒業。「L’AS(ラス)」など各店で務めた後、渡仏。2017年には「TIRPSE (ティルプス)」のシェフに31歳で就任。「ゴ・エ・ミヨジャポン2018期待の若手シェフ賞」受賞。 現在 Mr. CHEESE CAKE の他、複数の事業を手掛ける事業家として活動。@tam30929


text 中森葉月

本記事は雑誌料理王国第308号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第308号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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