トップシェフの健康な食事の提案#1「消化脂肪吸収を助ける工夫を」


脂肪の消化吸収を助ける工夫を

日本人は脂肪の消化吸収が苦手

日本人は脂肪の分解にかかわる酵素の分泌量が少なく、食物を脂肪消化の舞台である小腸に送る力が弱いので、脂肪の消化が苦手で時間がかかります。そのため、脂肪を摂りすぎると胃もたれや便秘を起こす人が多いのです。また、油は種類に関係なくカロリーが非常に高いので、女性にとってはダイエットの大敵。男性は、先述のとおりおなかに内臓脂肪がついて、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を招くことになります。

肉は部位によって脂肪の量が違い、同じグラム数で比べると、バラ肉が含む脂肪はヒレ肉の3倍以上にのぼります。ただし、どんな食材を使うにしても、余分な脂を落とし、調理ではポイントをおさえて油を使うことで、日本人にとって食べやすく、体に優しい料理を提供できます。

切り方で変わる吸油率

調理の前にやっておきたいのが、余分な脂を落とすこと。豚ロース肉の脂身、鶏肉の皮は、旨味のもとになる一方で脂肪が多く、肉のカロリー全体の半分を占めています。牛肉は網焼きにすると脂の約25パーセントが、鉄板焼きは15パーセントが落ちるといわれていて、このとき、肉を薄く切って焼くほど脂が落ちる割合が上がり、料理全体の脂を少なく抑えられます。

では、揚げ物はどうでしょう。調理によって食材にどれだけ油が入り込むかを数字で示したものを「吸油率」といい、料理全体の重さのうち油が占める割合を表します。食材を小さく切ったり、薄切りにしたり、細く切ったりすれば、食材が油に触れる面積が大きくなるので、吸油率は上がってしまうというわけです。たとえば、皮付きのジャガイモを大きく四つ切りにして揚げると吸油率はわずか2~5パーセントですが、皮をむいて細い千切りにしてしまうと19パーセントに跳ね上がります。肉や魚も同じなので、小さく切って揚げるのではなく、丸ごと揚げて、あとから切ってください。

揚げ物の衣はできるだけ薄くする

揚げ物は衣が油を吸うため、衣の厚さで吸油率が変わります。しっかりした衣をつけるフライがもっとも吸油率が高く、天ぷら→唐揚げ→素揚げの順に低くなります。小麦粉を片栗粉や米粉に替えるだけでも吸油率が下がります。

また、吸油率は食材によっても変わります。もともと水分が多い食材は、揚げている最中に水分が外に出て、代わりに油が入ってくるため、衣が同じでも吸油率が高くなります。たとえばナスの吸油率はジャガイモの7倍にものぼるのです。

油で長時間焼かず、事前に火を通す

揚げる代わりにオーブンで焼けば、食材に入り込む油を少なくできます。また、炒めるときは油がなじんだフライパンを使うこと。油がなじんでいないフライパンとくらべて、油の量が3分の2程度ですみます。また、食材を下茹でしたり、電子レンジにかけたりしておいて、仕上げに油で焼いてパリッとさせれば、調理時間が短縮できて、使う油を減らせます。

オリーブオイルは風味づけ程度に

仕上げにオリーブオイルをかけて提供するカルパッチョなどの料理は、食べる側が油の量を調節できません。負担に思いながら食べたり、皿にたまった油を見て「体に悪そうだな」と感じたりしたら、せっかくの料理が台なし。そのため、オリーブオイルは風味づけ程度に抑え、香味野菜を使って爽やかに仕上げるのがおすすめです。シソ、ショウガ、ミョウガ、ミツバ、長ネギ、ユズなどの和食の薬味も利用できます。

田村亮介さんが提案するひと皿

肉を薄切りにし、脂を落とす
おいしさがあってこそのレストラン料理妥協のない調理と計算で実現

「薄切り肉」をテーマに田村さんが作るのは、四川料理を代表する前菜のひとつ「蒜泥白肉(スワンニィパイロウ)」。定番は、豚肉とキュウリにニンニクの利いたソースだが、脂質を抑えるための工夫と細やかな仕掛けを散りばめたひと皿に。まず、豚はバラ肉を使い、薄切りではなくブロックの状態で調理をスタート。80〜90℃の湯でじっくりと下茹でして、脂を落としてから薄くスライスする。先に薄切りしてから茹でると固くなってしまうが、ブロックで茹でることでやわらかく仕上がり、縮むこともないためスライスしても美しく仕上がるのがポイントだ。

スライスした豚バラ肉は、蒸し器で蒸してさらに脂を落とし、最後にキッチンペーパーでいま一度脂をとってから盛り付けへ。脂質を抑えるにはモモやロースを使うことも考えられるが、そこは「やはりバラのほうがうまいですから」と田村さん。おいしさのためには妥協せず、その分余計な脂をしっかりと落とす工夫を凝らしている。これに合わせるソースは、同量の醤油とザラメに八角、桂皮(シナモン)、陳皮を加えてじっくりと煮詰めたもの。本来「蒜泥白肉」のソースにはニンニクを利かせるが、ここではあえて加えない。

下茹でし、蒸して脂を落とした豚バラ肉は、さらにキッチンペーパーで脂を取ってから盛り付ける。余分な脂は徹底的に取り除き、バラ肉の脂のよいところだけを残して仕上げへ。

計算し尽くしたソースと薬味で優しく繊細な味わいを楽しむ

仕上げにも田村さんらしい細やかさが光る。通常はラー油をかけるところを、ここでも脂質を抑えるため生の赤唐辛子を細切りにして散りばめた。さらにキュウリの薄切りの代わりに花キュウリ、熟成させた黒ニンニクと、乾燥させたニンニクのパウダー、酸味のあるオキサリスなどをあしらい、ソースをかけて完成。ひと皿の中にあらゆる味わいをバランスよく集約させた、見た目にも美しい新たなイメージの「蒜泥白肉」ができ上がった。

ニンニクはソースに入れると全体が同じニンニクの味になってしまうため、今回は薬味として使用。しかも、甘くフルーティな熟成黒ニンニクと香ばしい乾燥ニンニクの2種のニンニクを散りばめることで、味わいに豊かな表情を持たせた。さらにオキサリスの酸味と赤唐辛子のほのかな辛味が豚バラ肉の脂の甘味を引き締め、中国料理らしいスパイスがほんのりと香るソースを引き立てる。脂質をしっかりと落としつつ、甘味と旨味のよいところだけを残した豚バラ肉に、油を使わずさっぱりとしていながら細かく計算された薬味とソースを合わせて仕上げたひと皿。優しく軽やかで、体にすっと入ってくるうまさだ。

蒜泥白肉(スワンニィパイロウ)
薄切り豚バラ肉 四川甘醤油 フルーツガーリック・ドライニンニクのソースで
四川料理の定番「蒜泥白肉」のイメージを覆す華やかなひと皿。豚バラ肉を塊のまま下茹でし、さらに蒸すことで脂を落とし、さっぱりとした味わいに。さらに熟成黒ニンニクと乾燥ニンニクの併用で香り豊かに仕上がっている。

POINT

豚バラ肉の脂質を極限まで落としながら定番レシピを再解釈、薬味とソースで楽しさとおいしさを

合わせるソースは、同量の醤油とザラメに香辛料を加えて煮詰めたもの。本来はここにニンニクを入れるが、あえてここでは加えない。

茹でた豚バラ肉を、1mmほどの薄さにスライス。肉が縮んでいないので、きれいにカットできる。これを蒸し器で1分ほど蒸して、さらに脂を落とす。

豚バラ肉を、あえて塊のまま下茹でして脂を落とす。薄切りの状態で調理を始めると縮んで固くなるが、塊で火を入れることで柔らかく茹で上がる。


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