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スパイス商、シャンカール・ノグチ監修『スパイス実用集』


スパイスの特性や香りを理解することで、カレーを作る楽しみは角度をもって広がる。ここからはインド人の祖父を持つスパイス商、シャンカール・ノグチさんにスパイスの解説をしてもらう。インドにおけるスパイスの価値、さらには調合技術や効能についても教えてもらった。強く生きる時代に求められる、スパイスライフの極意を伝授!

スパイスは単なる香辛料ではなく医食同源の生活に欠かせないもの

上の写真は、インドのとある家庭に伝わるガラムマサラ手帖。家族の体質などを考慮して調合が決まり、それを記した手帖を代々受け継ぐそう。結婚などによって家と家が出合うことで、また新たなガラムマサラの系統樹が誕生する。つまり、インドにおいてスパイスは単なる香辛料ではなく、医食同源のライフスタイルを送るための必需品なのだ。スパイス商のシャンカール・ノグチさんはいう。 「インドの取引先の工場長宅にお邪魔したときに、代々受け継ぐガラムマサラ手帖を見せてもらったことがあります。そこにはご両親それぞれの家系で使用してきたスパイスが細かく記され、『お父さんの家系は胃腸が弱い』など、まるで医者のカルテのような家族の体質に関する記述もありました。そうした情報をもとにガラムマサラを調合しているので、68歳を過ぎた工場長は今でも元気に働いています」

もちろんシャンカール家にも代々受け継がれてきたガラムマサラがあり、スターアニスやニゲラが入っているのが特徴だそう。ガラムマサラに代表されるスパイスミックスは、他にもたくさんある。硫黄香がするブラックソルトと酸味のあるマンゴーパウダー、ローストしたクミンなどを調合した「チャットマサラ」、ベンガル地方で使用される「パンチフォロン」はフェンネル、ニゲラ、クミン、ブラウンマスタード、フェヌグリークのそれぞれが持つ個性を上手に組み合わせたスパイスミックスだ。

「インドの食文化はバラエティに富んでいるので、地域によって使うスパイスの傾向が異なります。例えば北インドはマトンや鶏を食べる肉文化なので、クミン、カルダモン、クローブ、シナモン、ガラムマサラが定番のスパイス。南インドは魚や野菜が中心なので、ブラウンマスタードやカレーリーフをよく使いますね。東インドではベンガル湾の淡水魚を食べる文化があるので、『パンチフォロン』のようにブラウンマスタード、フェンネル、フェヌグリークの組み合わせが定番。このように、南インド料理とベンガル料理では共通してブラウンマスタードが使われていますし、北インドのスパイス使いを見ると、肉にはシナモンやクローブと相性がいいですね」

多様で複雑だから楽しい、スパイスの世界。難しく捉えてしまう人もいるが、シャンカールさんは基本の4つのスパイスの配合比率さえ覚えてしまえば、あとは応用していくだけだという。「基本の4つのスパイスは、クミン3、コリアンダー3、ターメリック1、レッドチリ1。この3:3:1:1の比率で前述の パウダースパイスを混ぜれば、スパイスカレーブレンドの出来上がりです。もうひとつ覚えておいていただきたいことは、スパイスを2度に分けて使うテクニック。クミンシード、カルダモンホール、シナモンスティック、クローブ、レッドチリホールなどのスタータースパイスは、調理の最初に油といっしょに炒め、スパイスの薬効成分や香りを油に移します。一方、パウダースパイスは調理の途中で投入し、香りと味をつけます。特にコリアンダーパウダー、ターメリックパウダー、レッドチリパウダーは香りのベースとなるパウダースパイスで、インド料理の香りの骨格はここにあると言っても過言ではありません」

シャンカール家に伝わるガラムマサラの原料。コリアンダー、グリーンカルダモン、シナモン、クミンシード、ブラックペッパー、ナツメグ、スターアニス、カレーリーフなど数十種類のスパイスを調合して作る。この味はシャンカールさんが調合するIndia Spice&Masala Companyの「ガラムマサラ」で楽しめる。

最後にシャンカールさんに、スパイス選びのコツを聞いてみた。「スパイスの良し悪しを見分けるコツは、何といっても香りです。スパイスの命は香りなので、香りがぼやけているものはダメです。さらに色の鮮やかさ、ツヤのよさ、そして粒の大きさで見分けるといいでしょう。ネット通販でもスパイスは入手できますが、コロナ禍が終息したあかつきには、専門店に足を運んで鼻と目で選ぶことも楽しんでみてください」

シャンカール・ノグチ
インド・パンジャブ地方出身の祖父が開業したインドアメリカン貿易商会の3代目。スパイスをはじめインド食品の輸入やオリジナル商品の開発・販売を手掛ける。「東京スパイス番長」や「スパイスと酒の研究室」のメンバーとしても活躍。近著に『スパイスの世界へようこそ!』がある。

text 馬渕信彦 photo 依田佳子

本記事は雑誌料理王国2020年6・7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年6・7月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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