日本料理の名店を訪ねる「一子相伝なかむら」


京都・富小路御池

一子相伝の家訓のもと、日々精進し続ける京料理 中村 元計「一子相伝なかむら」

老舗旅館が点在するエリアに暖簾を掲げる「一子相伝なかむら」。その歴史は江戸時代後期にさかのぼり、代々の主人はそれぞれ「味」ひとすじに真摯に腕を磨いてきた。2010年にはミシュランガイドの三つ星に輝き、現在もその星を守り続ける。古い伝統と新しい創造が、いつ訪れても変わらない唯一無二の魅力を生む。

畳の香りに癒される個室。雪見障子越しに坪庭の緑が一幅の絵のように眺められる。

創業は文化文政のころ。数ある京料理店のなかでも、独自のスタイルを貫いている。季節のおまかせ料理の献立には、代々ひとりの世継ぎのみに伝える「白味噌雑煮」と「ぐじの酒焼き」がそれぞれ「相伝」、「名物」として組み込まれ、200余年に渡って「即味心也」を信条としてきた老舗の矜持を感じさせる。

「名物」のぐじの酒焼き。焼いた魚に湯をかけて飲むという昔の京の習慣から生まれたひと品。吟味したぐじに塩をしてひと晩寝かせ、酒を振ってこんがり香ばしく焼き上げる。身を食べ終えた後、昆布出汁を注いで汁として味わう。出汁をかけたときに生臭くならないように、うろこと皮の間の脂のうま味を生かし、水分を飛ばすように焼く。6名以上の場合は一尾まるごと提供する。

「 相伝」の白味噌雑煮は出汁や調味料を一切使わず、屋敷内からくみ上げる良質の地下水と白味噌だけで練り上げる。大量生産ではない白味噌の状態は常に均一ではなく、そのつど加減しながら「自分が納得できるところまでもっていく」。香ばしく焼いた丸餅、溶き辛子を添える。まろやかで上品な味わいをアクセントの辛子が引き締める。

6代目の中村元計さんは、京都・嵐山の天龍寺で禅を学んだのち実家に戻り、父親から一子相伝の味を受け継いだ。その後、日本料理アカデミーの一員として海外のシェフたちと交流するなかで改めて出汁の奥深さに気づき、他の料理には類を見ない、日本料理の香りやテクスチャーの豊富さを実感したという。「料理には伝統芸能のような『型』はなく、枠組みの中では自由に好きなことができます。守るべきは館に合うものを出すことです。料理も器も大事なのはうちの店の『風』に合っているかどうかのバランスでしょうか」。

「この時期の京都はどこも鱧の落としばかりでしょ?」と用意してくれた「鱧の木屋町揚げ」は2枚の鱧の間に刻んだ松茸と生雲丹を挟み、海苔で包んで油で揚げたものだ。「油で揚げることで、全方向から加熱することができます。さらに、中心と外の温度差があるから、雲丹は半生、鱧の皮目はパリッと身はふんわりとした食感が楽しめます」。揚げたてを少し休ませて、包丁を入れた瞬間に、薄く切って中にしのばせた松茸がふわりと香る。

鱧の木屋町揚げ
「はも八珍」をアレンジしたもの。松茸は細かく切ることで面積を増やして香気成分を存分に引き出し、鼻から抜ける香りを最大限に生かす。鱧に油が入りすぎないよう海苔で包む。しっかり溶いた衣を薄くまとわせ、太白胡麻油と太香胡麻油を混ぜたサラダ油を180℃に熱して揚げる。葛の葉を敷いた皿に盛りつけ、ミネラル豊富な真塩とスダチを添え、卸した青柚子をあしらう。器は志野焼。

薄衣をつけて揚げた「鱧の木屋町揚げ」は中と外の固さが異なるため、切るのが難しい。

ズワイガニとアスパラガスの寒天寄せ
10月に解禁されるズワイガニを使った先付。下に胡麻クリームと豆乳を合わせたソースを敷く。ズワイガニとグリーンアスパラガスは鰹と昆布の出汁と寒天で寄せる。切り出して盛り付け、天盛りに黄菊を。素材の食感を生かした口当たりの良い一品。器は黒楽。

カニとアスパラガスが美しい断面になるように切り出す。

「料理は作るよりも考えるのが好き」と話す中村さんは、料理を科学的な視点で学ぶために農学研究科の博士課程に進み、日本料理の伝統的な調理技術における油揚げの効果について研究した。「禅宗のお寺で修業していたころ、一番つらかったのはお腹が空くことでした。油をとてもおいしく感じ、その存在に助けられたものでした。油揚げの高温による香気成分、ほどよい油脂分は料理にコクを与え、満足感につながります。昔の人はそれを自然に生活のなかに取り入れていたようですね」。

長い歴史を重ねた老舗らしい思い出の品が随所に。

昨年からのコロナ禍の影響は大きく、厳しい状況は続いているが、今はあえて動かず、ゆっくり今後の展開を考えているところ。今年5月には、長男の元紀さんが修業先の台湾のフュージョンレストランから帰国、厨房のメンバーに加わった。

「日本料理についてはまだまだこれからですが、海外経験があるので僕とは違う感覚や目線を持っているかもしれません。昔ながらの修業ではなく、これから必要なのは勉強。厨房の若いスタッフの新しい意見もまな板に載せて考えてみる。良いものを作るためにはお互いに認め合ってチームとして稼働していかなくては」。

鱧と松茸の玉子豆腐
前菜もしくは小鉢で強肴として供する料理。玉子豆腐を作り、冷やしておく。濃口醤油を塗って香ばしく焼いた鱧を切り、玉子豆腐の上に並べる。鱧を焼くときはみりんを使わない。出汁、薄口醤油、濃口醤油、みりんを合わせたジュレに薄切りにした松茸を加えて上に掛ける。シャキシャキとした松茸と玉子豆腐のとろける食感が好相性。菊花と花穂紫蘇を散らし、軸三つ葉の彩りを添えて。

中村 元計さん
「食材の芯にあるものを感じさせる。悪いところをそぎ落とし、クオリティの高さを引き出すのが日本料理」

一子相伝なかむら
京都府京都市中京区富小路御池下ル松下町136
TEL 075-221-5511
12:00~14:00
17:00~19:30(最終入店)

本記事は雑誌料理王国318号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は318号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする