作りながら次々に出す”酒の肴”「明るい和食」で意表をつく。岡本良太さん(佳肴 岡もと)


岡本良太さんの理想は「自分が行きたい店」だという。京料理の世界で修業し、基本を体得したからこそ、〝酒と肴〟を表現の軸にする。

驚かされるのは八寸。懐石料理の華である八寸を、盛り込みにせず、ひと品ずつ作りながら出してゆく。「食べるペースを見ながら、お寿司屋さんみたいに(笑)。だって作りたての方が嬉しくないですか?」

型破りだが、酒の〝肴〟なのだから、まさにそのとおり。次々出てくるできたての料理で一献傾けるのは至福だ。〝酒〟についても、常時60種類もの品揃えと、小さなぐい飲みで提供するスタイルが独特だ。

「いろんな酒を試したり、料理に合わせるには、一合は多いですから」

メニューはなく、お客さまの好みを聞いて数種の酒を提案する。まずはこれ、次にこっちを飲もうかな……と思わせる語り口に、酒好きならずとも引き込まれてしまう。

料理の流れは懐石の定石どおり。ただし、向付に添えたわさびや塩は、豆皿の箸置に取りわけて、次が来るまでの〝肴〟に。あしらいを全部食べることを躊躇する必要はない。料理人にとっては空の皿が返ってくる方が嬉しいに決まっているからだ。

もちろん料理にも驚きがある。懐石の焼物といえば通常は魚。だが、登場したのは春巻きのような細長いひと品。金目鯛を大島桜の葉とパートフィロで包んで焼いた、斬新な「魚料理」だ。添えられたウニと柑橘のソースも、一見洋風だが、食べれば確かに和食である。「正統な料理の中にいくつかこういう皿を交えて、印象を強くしたいんです。京料理のつもりはありません」

前後をかっちりした和食で挟み、コースに緩急を付けてある。食べ終わった後で、深い余韻に包まれるよう、計算されているのだ。

箸置きを兼ねた錫製の豆皿に、お造りのわさびや塩を取り置いて、次の皿までこれで飲む。酒飲み心をくすぐる小技に、思わずニヤリ。

柔軟な世代が作る
型にはまらない和食

京都では、30代で独立を果たす料理人が年々増えている。伝統を重んじる和食の世界でも、今や「長年の修業」の意味が変わってきたのか。「僕らは体育会系の料理界で育った最後の世代。負けん気が強くて、やんちゃな人が多い。だから、凝り固まる前に独立したいんですよ」

調理法においても、若い柔軟さは発揮される。例えば下処理。「食べてみておいしければいい」と、岡本さんは型どおりの仕込みをしない。アクを抜かなくても十分においしい野菜や、新鮮なまま届く魚を活かす。昔と違い、圧倒的に素材の質が上がっているのだから。型にはまることだけが正しいのではない。

岡本さんは、料理についての長い説明を欠かさない。「わからないものを漫然と食べるより絶対に楽しい」から。見どころ、味わいどころを知って食べると、感動も倍増する。

とっつきにくく感じがちな和食の世界に、こんな明るい食体験が実現されれば、もっと和食が好きになるだろう。伝統を未来につなぐのは、意外とこんな世代なのかもしれない。

岡本さんの感性のルーツ

師匠である「上賀茂秋山」の秋山直浩さんのレシピ本『基本のだし』。「いつもカツオと昆布じゃ飽きるやろ」と貝のだしを使う柔軟な発想、お客さまを楽しませる力、人間性など秋山さんの全てが岡本さんの礎となっている。

いろんな酒と合わせながら
気軽に和食を楽しんで欲しい。

コースに緩急を付けるひと皿
懐石の焼物を洋の素材であるパートフィロで包み、オーブンで焼き上げるアイデアが斬新。やわらかく食感の邪魔にならない大島桜の葉を忍ばせて、「見た目はシンプルに、仕事はしっかり」を体現している。

よりリラックスできる空間を作るため、カウンターはあえて白木ではなく桜材を選択。塗りの折敷なども用いない。お客さまとの距離が近い店造りは「僕が行きたい店にするため」。

金目鯛と大島桜の葉のパートフィロ包み焼き
多層になったパートが鯛の水分を吸い切るため、表面はサクサク。ほっくり蒸された金目鯛とのコントラストに、大島桜の塩味が寄り添う。ウニと柑橘のソースを付ければ、コクと酸味が加わってさらに深い味わいに。

Ryouta Okamoto

1981年広島県生まれ。京都の「花吉兆」、大阪の天ぷら店「一宝」などを経て、京都「上賀茂秋山」でオープン半年後から5年間経験を積む。2013年12月に当店オープン、1年目でミシュラン一ツ星に輝く。

酒の品揃えは、出身地の広島産数種を含む約60種。ゲストが好みを伝えて岡本さんが候補を出す。かつては無口だったという岡本さんも、「上賀茂秋山」で接客の楽しさを知ってからは名プレゼンターに。「そろそろあいつの顔見に行ってやろか、と思って来てほしいです」

佳肴 岡もと
Kakou Okamoto
京都市東山区常盤町470-4
☎075-551-1055
● 17:30~22:00最終入店
● 月、最終日休
●コ ース11800円のみ。日本酒500円~
●8 席

藤田アキ=取材、文 三國賢一=撮影

本記事は雑誌料理王国263号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は263号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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