ペルーでの感染者は8月で遂に50万人を超えてしまいました。私たちは、このパンデミックと折り合いをつけていくために、何がうまく行かなかったのかを反省し、分析しなくてはならないと考えています。感染の拡大という致命的な失敗に対して、今、そこから立ち直る術を探しているところです。これまでも、内戦やテロなど、私たちはとても厳しい状況に置かれてきました。しかし、ここまで厳しいものはなかったように思います。社会的にも、様々なものが価値を失い、経済的な損失も大きく、近い将来の幸福を誰も保証できない状況です。
厳しい外出制限をかけたにもかかわらず、失敗したのは、ペルーは広大で、人々の考え方、言語、民族グループが異なり、複雑だからでしょう。今考えうる、一番良い対処法は、ペルーと一括りにするのではなく、異なった権力やルールという多くのリアリティを持つ国として捉えることです。
大都市のリマでも、コロナは猛威を振るっていますが、とりわけ深刻なのは、これまでも何年も放置され、忘れ去られてきた、先住民族の住むアマゾンで、多くの人々が苦しんでいます。
リマに住む我々は仕事に戻り、自分たちの面倒をみることができますが、従業員や家族だけではなく、アマゾンやアンデスに住む他者に関してもっと考えなくてはなりません。
店は7月20日に再オープンしました。まずは、地元の人とつながるためのカジュアルなコンセプトのMayoを前面に打ち出し、ファインダイニングのCentralとKjolleが続く形で、現状リマの3店は営業しています。幸せなことに、多くの地元の人と、10年来のリピーターの方が来てくれています。
アンデスの山あいにある、クスコのMilはまだ閉店していますが、私たちは、レストランを閉めている間、ペルー全土へのリサーチの旅を取りやめる代わりに、Milでのリサーチと、アンデスの人々を支えるプロジェクトに集中していました。この期間中に、店の農場で、品種改良された224種類もの野菜を、アンデスの300の先住民の家族と共に収穫しました。彼らは新しい品種の豆や、野菜、根菜などの収穫を受け取り、私たちはそれらをより良いものにするためのサンプルを保管したのです。今年10月には、ア ンデスに住むこの素晴らしい人々と一緒に、再び種を播く予定です。
サステナブルであるということは、ただのコンセプトや、利益を得るための流行でなく、感謝して生きるための手段であるべきです。私たちが行動し、考え、生きる道の一部、ライフスタイルや責任そのものであるべきだと思うのです。
コロナを通して、考えるチャンスがあったのですから、その考えをただ寝かせて置くだけではいけません。自分たちの喜びや保身を考えるよりも、世の中をより良くするためにはどうしたらいいかを考え、行動に移すべきです。善意をもって行動すれば、利益は後からついてくる、ということを理解しなくてはなりません。
未来の美食はあらゆる分野での、危機管理能力と、誠意を持って人々に食を提供する責任を持つでしょう。
今後のファインダイニングは、ゲストや、従業員、土地、マネジメント、戦略、物流、新しい調理法、教育に対して、かつてないほどの責任を負うでしょう。責任を持たなくてはならないリストは長大です。それでも、人々に料理を提供するための訓練を受けてきて、人々に信頼されてきた私たちが、行動し、コミュニケーションを取り、発信していかなくてはならないと思います。
text 仲山今日子
本記事は雑誌料理王国2020年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2020年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。