海外でプラントベースが存在感を強める中、古くからの菜食文化が息づく日本では、どのような動きがあるのだろうか。企業動向や専門家の意見などから国内のプラントベース最新事情を探る。
そもそも「プラントベース」とはどういう意味で、どう定義されているのか。
なぜ今、世界で、そして日本でも注目されているのか。植物性食品の販売や飲食店に関わる有識者たちに話を聞いた。
開口一番、「プラントベースとヴィーガンの違いはわかりますか?」と、こちらの曖昧な認識を見透かしたかのような、鋭い質問を投げかけてきたのは、「グリーンカルチャー株式会社」代表、金田郷史さんだ。自身もベジタリアンの金田さんは、2011年からベジタリアン向け食品の通信販売を手がける会社を立ち上げ、現在は自社開発の「プラントベースウインナーソーセージ」など、大豆ミートを使用したオリジナル商品も手がける。日本における現在のプラントベースを取り巻く状況を、金田さんは次のように見立てている。「世界各国から様々な食習慣のゲストが集まるオリンピック開催予定の影響もあり、ヴィーガン、ベジタリアン市場には注目が集まっていました。特に今年に入ってからは、自社通販サイトで扱う商品名を『ヴィーガン○○』から『プラントベース○○』と変えただけで、売上げが前年比約120%程伸びた例もあり、今までのヴィーガン、ベジタリアンという言葉よりも、『プラントベース』が言葉として浸透し始めている実感はあります。さらに、オリンピック延期後も、コロナ禍において健康志向や、レジ袋廃止などサステナビリティの意識が広がっている影響もあると思います」。
そこで、冒頭の質問に戻る。しばしば「完全菜食主義者」と訳される「ヴィーガン(vegan)」と、「植物由来(の食物や食生活)」を指す「プラントベース(plant based)」の違いはどこにあるのだろう? そして、なぜ今、ヴィーガンよりも、プラントベースという言葉が市民権を得つつあるのだろう? 一節にはイデオロギー色の有無とも聞くが、金田さんはそれよりも、両者の発想の起点がまったく異なるからだと言う。「つまり、動物を殺さない、動物性食品を摂取しないのがヴィーガンなら、動物性食品の如何を問う前に、植物をより多く取り入れようというのがプラントベース。ですから、プラントベースは動物性食品の摂取を完全には否定していないのです」と述べる。文字通り、あくまでも「植物性が基本」なのである。
一方、2000年にヴィーガン専門のカフェ「Café Eight」をオープンし、その後ヴィーガンレストラン「8ablish」(現在「PARLOR 8ablish」)を立ち上げた清野玲子さんは、若干覚めた眼で現在の状況を眺めている。「やはり、オリンピック開催が決まってから、メディアが思想やムーブメントとしてヴィーガンを取り上げることが増えましたよね。『Café Eight』を始めた際は、客層が限定されると周囲から猛反対されたのですが」。明らかに風向きが変わったと感じたのは、レストラン業態に転換した2年目の2018年頃。レストランのシェフが視察する姿を見かけるようになったと言う。「ガストロノミーの世界でもヴィーガンが取り入れられるようになり、もはや思想ではなく、ひとつの食のカテゴリーができあがりつつある」と、清野さんは感じている。
さて、今年がプラントベース元年だとしたら、今後、我々の食生活においてどのように定着していくのだろうか? 「言葉自体は一般化する可能性があると思います。特に20代は、植物性食品はサステナブルという認識が高いですし」と金田さん。清野さんも、「インバウンドとは異なるベクトルの層に刺さるのでは。栄養学も日々進化していて、植物ベースだからといって栄養が不足するというのも昔の考え方。コロナ禍の今、食の本質を見直す人が増えるなかで、健康的な選択肢として浸透する可能性は高いと思います」。
text 浅井直子 photo よねくらりょう
本記事は雑誌料理王国312号(2020年10月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 312号 発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。