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リストランテ・ミヤモト流!バラ肉のうまみを最大限に引き出す調理法


生産者の想いを汲み取り、それを料理で表現する。

リストランテ・ミヤモト 宮本けんしん

香心(こうしん)ポーク
完全無薬で健康に育った豚は臭みがなく、甘い脂身が魅力

「豚の脂身は敬遠されますが、むしろ料理人には、脂を食べて欲しいという気持ちがあるんです」

イタリア中部ウンブリアやトスカーナで修業したころ、豚肉を使った料理をよく作った宮本けんしんシェフにとって、豚肉は食指が動く魅力的な素材だ。豚肉の本来のおいしさを表現するなら、脂を活かした料理がいいと言う。

 豚肉はビタミンB1を含む良質のタンパク質なのに、ヘルシー志向の現代に逆行するイメージで語られる。だが、脂っぽさを感じさせない豚肉なら、受け入れてもらいやすいのではないか。そう考える宮本シェフが選んだのが、熊本の阿蘇天然ミネラル豚「香心ポーク」だ。

 麦を主体とする植物性の無薬飼料と、豊富なミネラルを含んだ阿蘇の黄土と伏流水で育つせいか、まったくと言っていいほど臭みがない。肉は放牧豚のように赤いが、サクッと歯切れがよく、脂はさらりとして甘い。しかも、健康によいオレイン酸が多く、脂の質も申し分ない。

消費者の要望に寄り添い安全でおいしい豚を開発


 香心ポークが育つのは、阿蘇の麓の田園地帯。有限会社コーシンは田園なかの農場で、繁殖から肥育まで一貫経営を行う。熊本県産のブランド豚「ひごさかえ肥皇」も育てているが、さらに、おいしさやヘルシーさを追求し、完全無薬で育てる自社ブランド豚を開発。徹底した衛生管理と温度管理を行い、薬は一切投与しない。健康に育った豚の中から優秀なメスを選別し、香心ポークとして出荷している。

 中心となって働く熊野博崇さんは、消費者や料理人の声を聞きながら、肉質の改良を重ねてきた。「宮本シェフからは、僕らが気づかない細やかな視点をいただけます。おかげで、『お客様が求める 』おいしさを考えるようになりました」と熊野さん。当初は、クセのない肉だったが、宮本シェフのアドバイスで、父豚を野性味のある品種に変えた。すると個性が加わり、上品ながらインパクトのある肉になったという。

 実は、香心ポークを竹林で放牧する計画もある。
「以前、竹林で放牧したら、野性味が増して、脂もよりあっさりと仕上がり、好評でした。また、あの放牧豚を育てて欲しいという声もあります。豚は寂しがり屋で、孤独なストレスからご飯を食べなくなるんです。放牧するなら人間の目が届く環境が必要。環境が整えば、いつか再開したいと考えています」
 熊野さんは「おいしさへのこだわりに終わりはない」と邁進する。そしてこうした取り組みを、宮本シェフも、周りの人々も応援する。

「仲間たちとみんなでやることに力を入れています」という宮本シェフ。付き合いのある熊本県内の生産者は50軒ほど。食材を改良したり、共同で商品開発も行なっている。

地元素材の魅力を引き出し、記憶に残る料理を食の産地に住む料理人は考えていくべき。

ゆっくりと低温で焼き脂の特性を引き出す


 香心ポークは、赤身の旨さもさることながら上質な脂に魅力がある。宮本シェフは、その特徴を活かす料理として、バラ肉を使ったウンブリアの伝統料理を披露してくれた。「香心ポークのバラ肉は赤身が厚いので、脂が気になりません。しかも脂肪融点が高いので、低温でじっくりと焼くローストのような、脂を活用する料理に適しています」

 オーブンで焼くシンプルな料理だが、まず、表面の脂身にのみ、天草の天日塩を塗り、チルドで3日間寝かせて熟成する。そうすることで脂の旨味と香ばしさが増し、脂がより気にならなくなるという。

 塩漬けしたバラ肉は、脂身の上に、ハーブをミックスしたラルドを塗り、溶けた脂をまわしかけながら、じっくりと低温で焼き上げる。アロゼによって肉の水分が閉じ込められ、赤身と脂の旨味が一体化し、長時間焼くと硬くなりやすいバラ肉が、しっとりと風味よく仕上がるのだ。「伝統料理はとても合理的にできていて、シンプルだけどすごくおいしい。何よりも、『食べたい』という本能に訴えかける力があります」

 宮本さんは、修業先のイタリアで、サイエンスを用いた美しい料理を学び、自らも作ってきた。だが、熊本に戻り、地元の生産者や滋味あふれる食材と触れるうちに、技巧に凝るのをやめた。素材が主役の、記憶に残る料理を作りたいと考えるようになったからだ。使う食材も、すべて熊本県産のものと決めた。地元の食材の魅力を見極め、活かし切る料理こそが、イタリアで学んだ料理のアイデンティティだと気づいたのだ。
 焼いただけのシンプルな野菜に肉の旨味が合わさり、味が幾重にも広がっていく。野趣あふれるひと皿には、生産者の想い、土地の風景や香りさえ、みごとに表現されていた。

香心ポーク ここがポイント!

1. 焦がさないよう低温でゆっくりと焼き上げる

バラ肉は表面の脂身のみに天日塩を塗り、1℃のチルドで3日間寝かしておく。塩漬けした脂身部分に、豚の脂とフェンネル、ローズマリー、ニンニクを混ぜてペースト状にしたラルドを塗ることで、肉の中まで効率よく味が染み込む。
180℃で30~40分焼き色をつけた後、白ワインとブイヨンを加えて130~140℃で 焦 が さないよう、5~10分置きにアロゼしながら2時間ほどゆっくりと火を通す。そうすることで肉の水分が保たれ、肉と脂が一体化して焼き上がる。

2. 肉がパサつかないようにアロゼしながら中まで味を染み込ませる

表面はしっかり焼けているが、断面はピンク色でしっとりした仕上がり。

【レシピ】香心ポークのバラ肉のウンブリア風ロースト

コース料理のひと皿として提供されるウンブリアの伝統料理。ハーブと香心ポークの香ばしさ、野趣あふれる盛り付けが、食欲を刺激する。塩が効いてさっぱりした脂身が赤身の甘みを引き立たせる。肉の旨味だけで味わう付け合わせの焼き野菜が、香辛料の代わりとなって、さまざまな味のハーモニーが生まれる。

材料(作りやすい分量)

香心ポークバラ肉…1㎏/天日塩…適量/ハーブ入りのラルド…適量/ローズマリー、セージ…各適量/バター…30ℊ/A 【赤ワインビネガー…50㏄/オリーブオイル…100㏄】/B【ブイヨン…100㏄/白ワイン…100㏄】
● ハーブ入りのラルド
ラルド…100ℊ/フェンネル、ローズマリー、ニンニク…各適量
● 盛り付け
チコリ、アスパラガス、塩トマト、カブ、間引きしたニンジン…各適量

作り方

  1. バラ肉は表面の脂身にのみ天日塩を薄くすり込み、チルド( 1 ℃)で3日間熟成させる。
  2. 1の肉の側面に軽く塩をふり、脂身の上にペーストにしたハーブ入りのラルドをのせ、側面にも軽くラルドを塗る。
  3. 2のラルドの上に、ローズマリー、セージ、バターをのせて鍋に入れ、Aを混ぜて肉全体にかける。
  4. 3を鍋ごと180℃のオーブンに入れて30~40分焼き、焼き色が付いたら、肉全体にかけるようにBを入れ、130 ~140℃に下げたオーブンに再び入れる。5~10分置きに鍋底にたまった油を肉全体にかけ、アロゼしながら2時間ほど焼く。その間焦げないように注意する。
  5. 付け合わせの野菜は、盛り付けの直前に焼く。フライパンには油をひかず、焦げ目がつく程度に焼く。アスパラは皮の部分をむいて、皮も一緒に焼く。ニンジンは葉を切り、葉も一緒に焼く。
  6. 4の豚肉を切り分け、5の野菜と一緒に盛り付ける。
Kenshin Miyamoto
1975年熊本県生まれ。19歳で渡伊し、「ラ・テンダ・ロッサ」を始め、星付きレストラン等で8年間修業。27歳で帰国し、2006年に「リストランテ・ミヤモト」を開店。2011年に農水省料理人顕彰制度「料理マスターズ」を九州初、最年少で受賞する。阿蘇地域の「世界農業遺産」への登録を提唱し、2013年の認定に貢献した立役者の一人として知られる。 2013年「くまもと『食の大地』親善大使」、2015年「ミラノ国際博覧会日本館サポーター」に就任。

リストランテ・ミヤモト
RISTORANTE MIYAMOTO
熊本県熊本市中央区辛島町6-15 クマモトイタリー亭ビル1F
096-356-5070
● 11:30~14:00 17:45~21:00(日・祝は~20:30)
● 火休
● 33席
http://forzakenken0609.wix.com/ristorantemiyamoto

御門あい=取材、文 有川朋宏=撮影

本記事は雑誌料理王国第251号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第251号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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