アナウンサー宮川俊二さんが考えるレストランが生き残る3つの条件


地方で突き詰めた上で出される皿
そこに客は「価値」を見出す

「最近は、面白い店がないな、と思っているんです」と、いきなり辛口発言をするのは、アナウンサーの宮川俊二さんだ。ブログで独自の食情報を発信し、いま夢中になっているのは、ワインと料理。日本ソムリエ協会認定ワイン・エキスパートでもある。至福を感じるのは自分でつくった料理とワインの選択がうまくいった瞬間」と公言する。自他共に認める食通だ。

〝流行りのおいしい料理〞では未来に続く繁栄はない

冒頭の発言の理由を聞いた。「今のレストランは、おいしい。けれど、その先がない。レストランだから、おいしいのは当たり前。それ以上の『何か』がなければ、食べていても面白くないと思うんです」具体的に言い換えると、「他人にはない、自分だけのものを持っているか」「皿の上に自分の人生が描ききれているか」「地域に根ざしているか」の3つになる、と宮川さんは言う。「どこかで見たことのあるような料理や、何の工夫も感じられない料理では、長くお客さまに愛してもらえる店にはなれないと思います。『地元の食材を使った料理を提供しています』だけでは、生き残っていくことは難しいと思うんです」
自分は、アナウンサーとしてナレーションが特別上手なわけでも、人よりも話の引き出し方に長けているわけでもない、と宮川さんは言う。「だからこそワインエキスパートの資格を取ったり、ベトナムで日本語教師をやったりして、いくつもの引き出しを持つ努力をしてきました。だから、68歳の今でも仕事を続けていられるんだと思います」料理の世界も同じ。自分なりに懸命に努力し、あがいた人生が皿ににじみ出る。それがなければ、人を惹きつけることはできない。

レストランが生き残る3つの条件
1. 他人にはない自分だけのものを持っていること
2. 皿の上に人生が描き切れていること
3. 地域に根差していること

全身全霊を注いだ地の料理 苦しみながら自己主張する皿

東京で店をやっているシェフたちに、「一度行ってほしい」と宮川さんが薦めるのが富山の「レヴォ」だ。裏山で撃ったツキノワグマの料理が出たり、立山から湧き出る水を使ったりしている。その地でしか出せない、オーナーシェフの谷口英司さんにしかできない料理が次々と提供される。「谷口さんが、全身全霊を注いだ料理が出てくる。都会のシェフたちは『自分の世界を創る』とはどういうことなのか、実感すると思います」宮川さんは、「それじゃ、自分は東京で何をやろうか」と考えるきっかけを与えてくれるはず、と言う。

谷口英司シェフ(右)と宮川さん。

もうひとつは、鹿児島の「カイノヤ・1931」だ。オーナーシェフの塩澤隆由さんは、プロの料理人からも熱い支持を受けて独自の世界観を貫く、評判のシェフである。「もう、とにかく熱心。前菜も濃い、メインも濃い。凝縮されたイタリアンという感じです。どれもこれも濃いなんて、本来だったら『ダメ』となるところなんだけれど、塩澤さんだけは別。苦しみながら自己主張しているところが、いつ行っても面白いんです」 客がこなくても自己主張は曲げない。苦笑してしまうほどのトンガリ具合が楽しい、と宮川さん。飛行機に乗ってでもときどき行きたくなる、そんな店なのだと言う。
「レヴォやカイノヤ・1931みたいなレストランが、各地に出てくるといいなと、僕は思っているんです。食があると、旅が生まれる。『ディナーはお目当ての店に行って、翌日の昼はその街のB級グルメを楽しもう』ということにもなる。そうなると、地方も活性化します」 都会だけが「ベストな出店地」とは限らない時代がやってきた。その地の特徴を捉えつつ、独自の考えを貫く――それこそが、現代に生き残るレストランの条件なのだ。

オーナーシェフの塩澤隆由さん(右)と宮川さん。お店を訪ねれば、決まって料理やワインの話で盛り上がる。

text 山内章子 photo 富貴塚悠太 

本記事は雑誌料理王国第261号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第261号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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