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鎌倉の予約が取れないレストラン


旬の味と旅行気分が満喫できる自然豊かな鎌倉の予約の取れないレストラン

藤本恵史さん│エテ

オープンから4年目。鎌倉にある「エテ」は、今もっとも予約の取りにくいフレンチレストランだ。予約を受け付けるのは、2カ月前の月初の営業日から。その日は電話が鳴りっぱなし。予約の取れた人はかなりの幸せ者だ。オーナーシェフ・藤本恵史さんの心尽くしのコース料理が5000円前後で食べられること、自然豊かなエリアに立地することなど、理由はいろいろあるが、根本は藤本さんの考え方にある。
「Biоをラテン語の〝bios=生命〟というように広義でとらえるなら、僕のめざすBiоは、料理を食べてくださる方の命を輝かせるということになるかな」と真顔で語る。シェフのその思いが伝わるから、一度訪れたゲストは必ずリピーターとなる。「エテ」ファンは増える一方なのだ。

ゆるやかに流れる時間とやさしい料理を堪能する

「遠方からのお客様も多いので、できるだけ会話を楽しみたい。ですから僕も料理をサーブします」と藤本さん。キッチンに面して8席ほど設けられたカウンターは、そうした会話が一番弾む場所だ。

フランス料理は高価で畏まったイメージで、とくに小さな子どものいる家族や、若いカップルには手が出ないと思われがち。「だから敷居を低くした」と藤本さんは言う。人間には平凡で穏やかな日常と同じくらい、「ハレの日」も必要。頻繁には訪れないその日が、生きる原動力になったりするものだ。「エテ」をそんなハレの場に使ってほしい。しかもそれほど無理をしない値段で。

ただし、きちんとしたフランス料理を提供するには、それなりの手間と材料費がかかる。「できるだけよい食材を集めるのも僕の仕事」。メインには熊本のあか牛や徳島のすだち牛といったブランド牛を使い、「どうせなら最高級品を」と、鴨はビュルゴー家シャラン産の鴨肉を使っている。「お金をもらうほどのサービ
スはしていませんから、サービス料はいただきません」とも言うが、それで採算はとれるのだろうか。
「旬の食材を上手に利用すれば大丈夫ですよ」。今日の料理に使ったアマダイも、走りの時期には高くて手が出ないが、旬になれば使えるし、また脂ものっていておいしい。

脂ののったアマダイ(上)に、タケノコやホワイトアスパラガスなど、藤本さんの
作る料理には、旬の食材がふんだんに使われている。


野菜については、地元産の鎌倉野菜が有名だが、「ほしい人がたくさんいるから、僕が使わなくても需要は足りているんですよ」と、奈良に住む祖母やその仲間たちが作る野菜をメインにすることもある。

食材については臨機応変に対応し、「これでなければ」とこだわりすぎないこと。そういう狭い視点で料理をすると、やさしい料理に仕上がらないからだ。

海や山が近いせいか、ここでは都会に比べ、ゆっくりと時が流れる。訪れる人は、そんな雰囲気に満たされるのだから、料理もやさしい目線で作るべきだ、と藤本さんは思う。
「僕のペースやこだわりをお客様に押し付けるのではなく、お客様のことを考えて歩調を合わせる。そういう気持ちを大事にしたい」

鎌倉駅西口から徒歩10分ほど。由比ガ浜大通りから一本路地を入った場所にある。


大阪出身の藤本さんが独立に際し鎌倉を選んだのは、無意識に「やさしい料理にふさわしい場所」を見極めたからともいえる。丸3年が過ぎ、ゲストに、なんとか名所案内ができるまでになった。「やっと予約が取れました!」と、スーツケースとともに満面の笑みでやってくるゲストに、「命を輝かせてもらっているの
は、むしろ自分のほうかも」と思う藤本さんだ。

「予約が取れないと言われることを、よい意味でのプレッシャーに感じている」と語る。休みの日も仕込みや買い物など、仕事のために時間を費やすことが多い。取材したのは「エテ」の定休日。厨房には黙々と食材の下拵えをするシェフの姿があった。

幸せな時間を求めて訪れる人たちの「命」を心尽くしの料理でもてなす。それが僕のめざすBiоです。

季節の香りとハーブのニュアンス
アマダイはフライパンで皮目を焼き、返したらオーブンに入れて身を焼く。あえて鱗を付けたまま焼くのがポイント。こうすることで、鱗の香ばしさと皮目のゼラチン質、ふっくらとした身の3
種の食感が楽しめる。これにタケノコやホワイトアスパラガス、ホタルイカなどの食感も加わって味わい深いひと皿に。カモミールの香りをつけたハマグリとミントを混ぜたグリンピースのソースが、全体をさわやかにまとめている。

Satoshi Fujimoto

1982年、大阪生まれ。辻調理師専門学校卒業後、都内のイタリア料理店やピザハウスなどで修業を積む。2008年、池尻大橋の「OGINO」のオープニングスタッフとして入社。ここでフランス料理の技術を磨く。11年にスーシェフまで務めた「OGINO」を退社し、同年、「エテ」で独立した。

エテ ete
神奈川県鎌倉市由比ガ浜2-7-20
山口ビル1F
☎0467-84-8114
● 11:30~13:30LO(水~日)
17:30~21:30LO(火~日)
●月休
●コース 昼3000円 夜4200円、5500円 ※価格は税込
●20席 www.ete-ete-ete.com

上村久留美=取材、文 依田佳子=撮影

本記事は雑誌料理王国239号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は239号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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