「牛肉って塩、コショウして焼くだけで十分旨い食材です。正直、仕事をする必要がないんです」と北山伸也さん。北イタリアで修業していた時も、肉を焼いてルッコラやパルミジャーノを添えたビステッカのようにシンプルな調理が多く、料理人の腕の見せどころが少ない素材だった。肉料理を得意とする自店でも、牛肉を使った主菜はひとつだけだ。「サシも入りつつ、赤身がしっかり。200グラムは出したいのでコストパフォーマンスもちょうどいい」。上州和牛のクリをアッロストで提供している。
優秀な血統の黒毛和種を群馬県の恵まれた自然環境の中、独自の飼料を与えて丁寧に肥育する。柔らかな舌触りと豊かな風味が人気。肩肉の一部にあたるミスジ(肩部分中ほどの赤身)とつながる部位・クリはやわらかな赤身が特徴。
料理の決め手となるのがスペックバター。修業した店のスペシャリテが、仔牛にクルミとパン粉を混ぜたバターを乗せて焼いたものだった。「牛肉に合わせて軽く燻製をかけた生ハム=スペックを入れるのは僕のオリジナルです」。バターのみだと肉から滑り落ちてしまうのでパン粉を加え肉の上に層を作るのだ。
ナイフを入れると香ばしいバターの香りにほのかなスペックの燻製香が混じり、パン粉のさっくりとした歯触りが弾力に富んだ肉の食感を引き立てる。ひと皿入魂で仕上げるシンプルな牛肉料理。白い皿の向こうに大らかなシェフの笑顔と料理人としての矜持がきらりと光った。
スペックバターはバター、パン粉、スペックをフードプロセッサーにかけ、棒状にまとめ、ラップで包み、冷やし固める。燻製をかけた生ハムを使うのが北山流。焼いた肉にバターを乗せてさらにオーブンで焼く。
牛肉を焼くときは極力動かさずに。強火で香ばしい焼き色をつけるのがポイント。片面とサイドを焼いたら、ひっくり返してフタをし、最低15分は寝かせる。蒸し焼き状態にして、しっとり感を。
香ばしく食欲をそそるスペックバターの層と肉汁あふれんばかりの赤身肉。アクセントはソースに加えたはちみつのビネガーの甘酸っぱさ。仔牛の付け合せとしてトレンティーノ=アルト・アディジェ州でポピュラーなトピナンブール(菊芋)のスフォルマート、ソテーしたジロール茸を添えて北イタリアらしさを演出。
材料(1~2人分)
牛フィレ肉…150ℊ/塩、コショウ、オリーブオイル…各適量
◦付け合わせ
フレッシュポルチーニ茸…40ℊ/ジャガイモ(レッドムーン)…40ℊ/白インゲン豆…50ℊ/塩、オリーブオイル、パルミジャーノチーズ、重曹、ニンニク、セージ…各適量
◦飾り用 タイム
作り方
1.150gのポーションにフィレ肉をカットして、常温にもどす。
2.1に塩、コショウをしてオリーブオイルを塗り、表面を炭火で焼く。
3.2をアルミホイルで包んで45 ~50℃位に温めたディッシュウォーマーの中で15 ~20分休ませる。
4.200℃のオーブンで1~2分温めなおし、再度炭火で表面をあぶり、カットして皿に盛る。
5.付け合わせを用意する。ポルチーニとジャガイモは5㎜にスライスし、塩、オリーブオイルをまぶしグリルする。オーブンシートの上に交互に並べ、上からパルミジャーノチーズをすりおろし、250℃のオーブンで5分焼く。
6.白インゲン豆は、水、重曹、ニンニク、セージでひと晩もどしてボイルする。ゆであがった豆は水をきって塩.コショウ、オリーブオイルで和える。
7.皿に付け合わせを盛り、白インゲン豆の上にフィレ肉をのせ、上からオリーブオイルをまわしかける。揚げたタイムを飾る。
1974年大阪府生まれ。トレンティーノ=アルト・アディジェ州、ピエモンテ州を中心にイタリア各地で経験を積む。大阪「アミケッティ」、「リット・マーブル・トレ」を経て、2012年「タヴェルネッタ・ダ・キタヤマ」開業。
タヴェルネッタ・ダ・キタヤマ
TAVERNETTA da KITAYAMA
大阪市中央区北久宝寺町4-3-12
小原第五ビル1F
☎06-6251-3376
● 11:30~14:00LO、
18:00~22:00LO
● 昼1000円~
夜(アラカルトのみ)前菜1296円~
●日休 ●21席
http://tavernettadakitayama.com/
※税込価格
山田佐和子=取材、文 高嶋克郎=撮影
本記事は雑誌料理王国245号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は245号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。