胃を満たし、心に染み入るフランス料理を教えてくれたのはビストロかもしれない。年齢が離れた2人のシェフは、奇しくも本場の料理を学びに渡ったフランスで、同じようにビストロに魅せられた。「ビストロシンバ」と「ラミティエ」のお話だ。
20代の始め、1980年代半ば、東京のレストラン全盛での下積み時代。フランス料理店の敷居の高さに違和感を持ちつつ、宮下清志シェフはフランスへ渡った。で、行ってみたら違った。フランス料理は食事の場も多様で、一部のセレブリティのための料理じゃなかった。星付き店でも修業を積んだが、最もしっくり来たのは庶民が集う、活気あるビストロだった。
例えばパリの証券取引所の近くにあった200席のビストロでは、厨房3名でがんがん作ってサービス担当がどんどん運ぶ。パリのポリドールという安いビストロでは、サービスのおばちゃん達が暇さえあればよく喋る。この自由な空気感がいいと思った。2年間で10軒近い店で修業を重ね、帰国後はあのビストロをやろうと決め、下町感が残る高田馬場に場所を見つけた。
ビストロってなんですか?
ビストロというフランス語が生まれたのは、一説によると1884年で、ロシア語の「速く」が語源。近所のこぢんまりとした食堂または居酒屋のイメージで、テーブルとテーブルの距離が近い。従って、和気あいあいとした雰囲気。料理はシンプルで庶民的な料理、高価な食材を使わない料理が典型的。ランチタイムはプラ・デュ・ジュールと呼ばれる、日替わり定食を提供。1990年代に入ると、ガストロノミー(レストラン)レベルの食材やテクニックを使いながら、庶民的な価格で料理を出すビストロノミーまたはネオビストロが登場し、日本でも近年、この手のフランス料理店が多くみられるようになった。
違いがわかりにくいのがブラッスリー。実際、明確な線引きはない。こちらも大衆的な居酒屋なのだが、語源がブリュワリー(ビール醸造所)であることから、アルコールのメインはビール。通し営業で深夜まで開いているため、夜遅く食事をとれる場所と認識されている。
ビストロ料理には欠かせない定番がある。宮下シェフもオープンから20年間ずっと大事にしている「エスカルゴ」「ステークフリッツ」「ブフ・ブルギニョン」「プティサレ」などだ。どれも現地さながらにボリュームたっぷり。「僕のは、客の会話を邪魔しない料理」と謙遜するけれど、実際はその料理を目当てに、予約が取れない人気ぶりだ。もうひとつ驚くのが価格。昼はデザートも入れて1人2,000円、夜は2人でボトル1本と食事で10,000円ちょっとでおさまるのが理想という考えを貫いている。
「20年前、50歳を過ぎたら楽になってると思ってたけど、変わらないのだけが誤算」とシェフは笑うが、毎日満席、予約困難な人気店になった理由は、その楽じゃない地道な仕事の積み重ねがあったからに違いない。だって庶民ほど、シビアな客はいないのだから。
【材料】(約10杯分)
骨付き豚スネ肉…2㎏
レンズ豆…500g
玉ねぎ…1個
にんじん…1本
セロリ…1/2本
ベーコン…200g
にんにく…2株
水…2ℓ
ドライオレガノ、ドライタイム、
塩、パセリ…各適量
ソミュール液…(水1ℓ、塩120g、砂糖50g)
【作り方】
❶骨付き豚スネ肉はソミュール液に2 ~ 3日漬ける。
❷取り出した①を鍋に入れ、水、玉ねぎ1/2個、にんじん1/2本、セロリ1/2本、にんにく2株を加えてとろ火で4 ~ 5時間、皮がはじけないように注意しながら煮る。煮えたら取り出し、ゆで汁は取っておく。
❸レンズ豆は1度たっぷりの水(分量外)で茹でこぼす。
❹玉ねぎ1/2個、にんじん1/2本、ベーコンを細かく刻む。
❺鍋に③の豆、④の野菜、ドライオレガノ、ドライタイム、②のゆで汁適量と水(分量外)を豆がかぶる程度まで加え、30分ほど煮る。
❻茹で上がった②を器に盛り、⑤を添え、刻んだパセリの葉を散らす。食べるときに、マスタードを添える。
L’AMITIE ラミティエ
東京都新宿区高田馬場2-9-12
TEL 03-5272-5010
火~日12:00 ~15:00(L.O.13:30)
火~土18:00 ~23:30(L.O.21:00)
日夜・月休
text 馬田草織 photo 菊池和男
本記事は雑誌料理王国2020年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2 2020年5月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。