独特の食感と滋味あふれる「もち麦」を春香る日本料理にアレンジ


日々炊くごはんの中に麦や雑穀を炊き込むという嗜好は、健康に気づかう人の間では増えつつあるものの、そこから料理にアレンジするという使い方はまだまだ少ない。しかし、プチプチもっちり食感のもち麦や雑穀は、淡白ながらも滋味深く、意外にもさまざまな料理との相性がいい。そんな食材の魅力と使い方を日本料理店『鈴なり』の村田明彦さんにお聞きした。

昨今の健康意識の高まりとともに、注目を集めている食品のひとつに大麦・雑穀がある。大麦は白米と同様に日本では古くから主食として親しまれてきた穀物で、 “水溶性食物繊維”と“不溶性食物繊維”という働きの異なる2つの食物繊維がバランスよく豊富に含まれ、その含有量はゴボウや玄米などと比較しても突出している。また、大麦の種類はでんぷんの違いによって「もち麦」と「うるち麦」に分けられるが、あっさりとしたうるち麦に対し、もち麦は特に食物繊維が多く、プチプチもちもちした食感が特徴的だ。

うるち麦の製品には食べやすいように加工した「押麦」や、米の形に削って磨いた「米粒麦」などがあり、いずれも米とともに炊き込んで使用することが多い。一方、「もち麦」はしっかりとした食感があるので、米と炊き込む用途以外にも、炒飯、スープ、サラダの具材に使ってもその持ち味を発揮するなど、料理の幅をさまざまに広げてくれる。また、キヌアやアマランサス、黒米や赤米などの雑穀についてもミネラルや栄養価が高く、食感はもちろん味も彩りも豊かで健康志向のメニューに取り入れる傾向が増えている。

今回はそんな大麦・雑穀を用いた料理を、新宿区荒木町にある日本料理の『鈴なり』の店主、村田明彦さんに披露していただいた。季節感にこだわり「おいしいものを、全力で」を信条とする村田さんは、老舗日本料理店『なだ万』で13年間修業を積んだ後、2005年に当店をオープン。ミシュラン1つ星獲得とともにリーズナブルな値段で本格的な日本料理が食べられるとあって幅広い層から人気を得ている。

「修業時代から大麦は馴染みのある食材でしたが、昔は押麦がメインだったので料理に使うことはあまりなかった。なのでもち麦を初めて食した時の独特のもっちりの食感は驚きでしたし、これは料理に色々と使えるな、と」
和え物や汁物にも使ったことがあるそうだが、今回作ってもらった料理は「もち麦入りひろうす(がんもどき)」と「アサリと十六穀米入り釜炊きごはん」の2品。雑穀が入ることで味や栄養はもとより、噛めば噛むほど味わいが深くなる。
「しっかり噛んで食べることで唾液もよく出るし、口中に旨味も広がる……。健康的な料理とも言えますね」
ごはんの場合は、大麦・雑穀は基本的に米と合わせてそのまま炊き込むという使い方が一般的。釜炊きごはんは、そこに春が旬のアサリとセリ、春ゴボウなどを合わせて香りも楽しむ逸品に仕上げている。具材は米の2割程度の割合が丁度いい。

3月中は「アサリと十六穀米入り釜炊きごはん」が提供されるほか、こちらの鶏肉を使った炊き込みごはんのレシピが掲載された冊子が配布される。

一方、「もち麦入りひろうす」の場合は、もち麦を蒸すという下準備を最初に行う。もち麦を水に浸けて水分を切り、蒸し器で約20分。茹でる方法もあるが、村田さんは蒸す方が食感が立ってよりもっちり感が楽しめると話す。

「少々手間がかかりますが、まとめて蒸しておけば、色々な料理にアレンジするときに便利です。吸い物やしんじょうなどにも使うことができますしね。ホタテのしんじょうとかの餡に合わせてみても美味しい。そう、むき蕎麦のように使えるんじゃないかな」

ひろうすは、くずした豆腐と大和芋の中に蒸したもち麦、銀杏や百合根、刻んだタケノコなどを合わせて丸く形づくり、油で揚げる。「もち麦の分量は全体の2割程度ですが、家庭で作る場合は半分くらいもち麦を入れてもいいと思います。形もまとめやすいし、食した時のもっちり感がより立ちます」

「もち麦入りひろうす(がんもどき)」

もち麦や雑穀は本当に面白い食材で、これらからももっと積極的に使いたいと話す村田さん。
「味の淡白さと食感は、さまざまな食材に染まりやすくアレンジもしやすい。脇役のようで主役にもなれる個性的な食材だと思います」

雑穀や大麦を使った料理は健康志向の高い人の間でも特に評判がよく、「もち麦入りひろうす」と「アサリと十六穀米入り釜炊きごはん」の2品は、店では3月のコース料理の中で提供。旬菜盛り合わせやお造りなど華やかな春の恵みとともに、滋味深い逸品が堪能できる。

text:岩谷 雪美

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