都心は高すぎる。立地選びで成功を。「トラットリア フェルマータ」山田勉さん


「キューポラのある街」からグリーンアーヴァンシティへ――。鋳物工場の街といわれた埼玉県川口市は、2001年の埼玉高速鉄道の開通で都心とも直結し、都市と田園が織りなす豊かな住宅地に変貌した。

その埼玉高速鉄道・戸塚安行駅から徒歩8分。ここに山田勉さんが39歳で手に入れた自宅でもある「トラットリアフェルマータ」がある。「料理人を目指したその時から独立を考えていた」と言う山田さんだが、そのスタートは遅かった。大学卒業後のサラリーマン生活を経てからの転身である。そして、北イタリアでの修業中、地域の人々と共に生きるトラットリアの魅力に打たれ、歳を前に独立開業したのだ。

土壌もよく、人口も増えている地方都市の利点を最大活用

店に通ってくる料理人ではなく、そこで暮らす料理人になりたい、と思った。「でも、自宅として購入した物件でトラットリアが開ける立地となると、経済的な面からも都心は高額すぎて無理でした」と言う。

これをマイナスではなくプラスにする転換するために、場所を「調べ尽した」。戸塚安行は、江戸時代から造園業が盛んだったところで緑が美しい街だ。土壌も良質で、「ヨーロッパ野菜研究会」を立ち上げ、スティッキオやゴルゴなど色鮮やかな西洋野菜を作っている農家があることも知った。人口も増え続けている。若いファミリー層だけではなく、その両親の世代も元気で、スポーツクラブのテニスコートには女性たちの明るい声が響いている。この女性たちに愛される店にしたい。ここで根を張り、料理を作って暮らしていきたい。この強い想いが、まったく土地勘のなかった初めての街での独立開業となった。自宅の購入費とは別に1400万円かけて、1階を店舗部分に改装。天井の高い陽のふり注ぐ店内は、「お洒落で心地よい」と、女性客の心を掴んだ。

金融機関に提出した事業計画書には、月商の見込みを100万円と記したが、その倍の200万円を売り上げている。開店からもうすぐ5年。「フェルマータ」は、地域の人々が憩い、集うフェルマータ(バス停の意)となっている。そこには、山田さんの「街選び、立地選び」の成功の証があった。

「失敗もなく、地域の皆様に愛されてきたことが続くように、心を込めて励んでいきます」

山田さんの料理とともにその人柄も、この街に受け入れられたのだ。

「さいたまヨーロッパ野菜研究会」のサラダ仕立て イベリコ豚の炭火焼き
地元の農家が取り組んでいる「さいたまヨーロッパ野菜研究会」が生産するコールラビ(カブ)、ゴルゴ(ビート)、スティッキョ(フィンネル)などを使ったサラダ(下)とイベリコ豚の炭火焼き。味つけは塩だけで、素材の旨さを際立てている。

Tsutomu Yamada
1971年静岡県生まれ。大学卒業後、会社員を経て料理人に転身。北イタ
リアの星付きレストランで修業。 2010年、39歳で人口の増加が見込まれる埼玉県川口市の住宅街で独立。「さいたまイタリアンを全国に」を旗印にして、さいたま野菜、手打ちパスタ、炭焼きをメインにしている。

長瀬広子=取材、文 富貴塚悠太=撮影 

本記事は雑誌料理王国2015年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2015年8月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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