アラン・デュカス氏が全幅の信頼を寄せるフランク・セルッティ氏に師事した小島さん。その記憶に今でも深く刻まれているのは、彼と回った市場の光景だ。活気溢れる朝の市場をワクワクしながら歩いた。多くの食材の中から、シェフは、ニースでしか取れない小さなズッキーニや細くて小さなソラ豆を選び、また、モナコの漁港で水揚げされる魚で、毎朝、とびきりのスープを作った。「学んだことですか?難しいことは何もありません。自分の舌で味わって、おいしいもの、自分の料理に合う食材を選ぶということです」。初めての食材に触れる時には、先入観を捨てて、素直な気持ちで味わうこと。そんなことを繰り返していると、今まで知らなかった衝撃の旨さに出会うことがある。佐島産のアカザエビとも、こうして"衝撃の出会い"を果たした。
鎌倉のレストランでシェフをしていた頃は佐島港まで足を運び、さまざまな魚介を仕入れていた。が、アカザエビを使おうと思ったのは、信頼する築地の卸業者「彌」の紹介があったからだ。「食べてみたら新鮮で、本当においしい。フランスのラングスティーヌにも匹敵すると思いました」。こういう食材に出会うと、「最高の状態で提供したい」と料理人魂に火がつく。試作を繰り返し、殻付きのまま調理するのが一番、という結論に至った。
アカザエビの味を引き立てる付け合わせの野菜も大事だから、毎朝、自分で、地元鎌倉の市場で野菜を仕入れ、それを持って銀座のレストランに出勤する。
今ではすっかり有名になった鎌倉野菜だが、シェフは年以上前からこの野菜に注目。ニンジン、ホウレンソウ、ブロッコリーなど、野菜別に優れた生産者を知っている。
「これはアラン・デュカスも言っていることですが、素材自体がよければ、料理は必ずおいしくなります」。日本の食材の力は、海外のそれに負けていないと微笑む。食材への探究心は、これからも小島シェフを衝撃的な出会いへと導くことだろう。
冬野菜とアカザエビ、タラ、ブロッコリーのソース
魚介や野菜の旨味をストレートに表現するため、味付けは塩、コショウなどでシンプルに。食材の下のソースも、ゆでたブロッコリーに、塩、コショウ、オリーブオイルを入れてミキサーにかけたもの。最後に細切りの黒トリュフを添えて盛り付ける。
上村久留美=取材、文 富貴塚悠太=撮影
本記事は雑誌料理王国2014年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2014年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。