師であるピエール・ガニェールさんゆずりの大胆な味の組み合わせ、そこから生まれるひと皿で食べ手を驚かせたかと思えば、日本にしかない食材の魅力を、フランス料理の中でしっかり表現することもできる。東京・赤坂「ピエール・ガニェール」のエグゼクティブシェフ赤坂洋介さんは、ボーダーレスになりつつある東京のモダン・フレンチのなかで、パリのエスプリを感じさせながらも、ここが日本であることを意識させる現代のフランス料理人だ。
「フォワグラは、前菜やメインのほか、ソースのつなぎや副菜といろいろなことに使える食材」と赤坂さん。しかし、ピエール・ガニェールで出すのであれば、王道の食材でも、なにか新しい提案をしたい。さらに、赤坂さん自身が、今テーマに掲げている、「日本人が日本で作るフランス料理」であることも必要だ。
「脂が多いフォワグラには、冬のイメージがあります。それを、春から初夏の食材に合わせることで、フォワグラのテクスチャーや香り、コクといった、油脂とは違う魅力を伝えられるのでは、と思いました」
たとえば、4皿の季節の風のなかでも中心になるテリーヌは、ハチミツをかけたドライトマトという定番の甘味を合わせながらも、夏野菜の独特の香りとみずみずしさを持つキュウリの塩漬けを合わせて、フレッシュなフォワグラ料理を提案した。ほかにも、テクスチャーの軽いトーストを使ったり、果実味のあるソルベと合わせたりと、王道のフォワグラ使いとは、ひと味違う切り口でフォワグラを料理する。
2019年の6月まで、「ピエール・ガニェール」のプリフィックスディナーメニューのひと品としてメニューに載っていたもの。4皿で、フォワグラ各部位の特徴を活かした調理工程の工夫がされているのも見逃せない。フォワグラの各部位をどう使い分けているのかにも注目だ。
「日本人にはもともと、香りやテクスチャーを使いこなす繊細な感性があります。それをフランス料理のなかできちんと表現していくこと。王道とよばれる食材にも、まだたくさん表現することがあると思います」
プリフィックスディナーコースで選べる旬のひと品料理で、決められたテーマのもと4~5品の小皿でひと品になる。テーマになるのは、オマールやフォワグラのような食材や、抽象的なテーマになることもある。
フォワグラは左葉と右葉の2つの部位からなる。サイズが大きい右葉の方が、左葉ほど血管が複雑に入っていないので、掃除がしやすいためテリーヌに使用する。血管をきれいに取って口当たりをよくし、血なまぐささを抑えることができる。
通常メニューでフォワグラのポワレを出す場合は、サイズの大きい右葉を使うが、季節の風の中では、串焼き風にしてひと口サイズで提供するため、左葉の中心部分を、厚みが均等になるようにつかう。細かい血管も少ないのでポワレに最適。
左葉のうち、ポワレで使った残りの部分は、細かい血管が多いので丁寧に裏漉しして使う。生クリームの代わりに、フォワグラの油脂分を利用して香り高いパルフェに。トーストのサクッとした食感と酸味のあるフランボワーズを合わせた。
パルフェと同じ血管が多い左葉の余り部位を使うが、シノワで漉す行程があるため、掃除も裏漉しもせずそのまま使っていく。果実感のあるソルベとともに食べることで、季節の風の口直しのひと皿として、次の料理につなげる役割ももつ。
1979年、千葉県出身。武蔵野調理師専門学校を卒業後、21歳で渡仏。フランス各地で修業した後、23歳でパリの三ツ星「ピエール・ガニェール」へ。2005年、東京・青山の「ピエール・ガニェール・ア・東京」の開業を機に帰国。10年の現店オープン時には、アシスタント・シェフとして活躍。11年6月からエグゼクティブシェフに就任した。
Pierre Gagnaire
ピエール・ガニェール
東京都港区赤坂1-12-33
ANAインターコンチネンタルホテル東京36F
ANA InterContinental Tokyo 36FL,
1-12-33, Akasaka, Minato-ku, Tokyo
☎03-3505-9505
●11:30~13:30LO、18:00~20:30LO
●月休(祝日の場合は例外あり)
●コース 昼7000円~
夜13000円~
●52席
https://anaintercontinental-tokyo.jp/pierre_gagnaire/
江六前一郎=取材、文 富貴塚悠太=撮影
本記事は雑誌料理王国301号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は301号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。