2000年1月9日の神田「味坊」開店から20年が経った。
その羊肉串は、日本の羊シーンを新たなステージへと引き上げた。
そして2020年1月、東京都足立区六町に味坊の新たな秘密基地が完成した。オーナーの梁宝璋さん自ら溶接を行ない、耐火レンガを積んだ。組み上がった炉では、羊の丸焼きにじっくりと火が入る。
ここから何が生まれるのだろうか。
2000年の神田「味坊」を皮切りに、 梁さんは湯島、御徒町と店を出し、自転車で各店を駆け巡った。 2018年には三軒茶屋にも出店。そして今年、ラボを立ち上げた。梁さんはこのラボの向こうに何を見ているのか。
梁さんにとって丸焼きは悲願だった。 2016年の年末にオープンした「羊肉味坊」でも丸焼きを実現すべく、自動回転式の炉を入れた。
もっとも当時、丸焼きは実現できなかった。厨房の広さや炉のサイズなどが追いつかなかったのだ。
それから3年、ついに「丸焼きラボ」が完成した。丸鶏や鴨を吊るして焼く窯もある。シンボルだがこのラボにとって「丸焼き」は象徴に過ぎない。
このラボでは、何でもできる。100以上の点心を同時に蒸すことができる蒸し器やスチームコンベクションオーブンもあるし、なんと15升炊きの炊飯器も設置されている。「お弁当もやりたいなあ」と無邪気に微笑む梁さんは、このラボにさまざまな夢を載せている。
まずは食材の集積所、そして餃子や漬け物の加工場としてスタートした。
実は梁さん、パクチーやにんにくの葉など、店で使う野菜を自ら育てている。早朝からトラックにトラクターを積み込み、郊外に借りている畑を耕しに行くのだ。都内各店に卸す前に、いったん集積させる場所が必要だった。
別館の製麺ラボには生地を鍛えるキッチンエイドや製麺機があり、熟成庫には自家製の発酵調味料、冷凍庫には羊の枝肉も保管されている。
自家製の漬物や米もここから各店舗に卸す。「精米したてがおいしいから」と米穀店用の精米機まで導入した。
その先に、見据えている夢もある。「中国料理以外、他の分野の料理人にも使ってほしい。地方の料理人の期間限定店舗とか。きっと私には思いつかない使い方だってあるでしょう。何か思いついた人はすぐ相談して(笑)」
加工場に食材の集積所、そしてシェフや料理家同士のコラボレーションイベントからポップアップレストランなど梁さんの夢は膨らむばかり。
この日、お披露目に集まったシェフや料理家との話に花が咲いたところで梁さんが引っ張り出してきたのはピカピカの通信カラオケ機。
「やっぱり歌だよね」と御礼代わりに中国語版「北国の春」を朗々と歌い上げる梁さん。やんやの喝采が飛ぶ。
「防音工事もしちゃってるよ」
世界一楽しいラボの誕生である。
吉味東京[ジー・ウェイ・ドン・ジン]
東京都足立区一ツ家1-20-15
問 03-6803-0168(羊香味坊)
姉妹店の「羊香味坊」に電話でお問い合わせください。日時は応相談。要予約
text 松浦達也 photo 阪本勇
本記事は雑誌料理王国2020年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年3月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。