「noma3.0」に向けてレネ・レゼピが今考えていること


食材提供に関わるすべてを支えるために。過去2年のベストセレクションコースでスタート。

デンマーク noma レネ・レゼピ

ノマがついにファインダイニングとして再始動

コロナ後初のノマの「シーズン」が、7月9日にスタートした。これまで、春はシーフード、夏は野菜、秋冬はゲームミート(狩猟肉)と、季節に合わせたテーマで料理を提供してきたが、この度10月3日までのwithコロナの「第1シーズン」としてリスタートしたのは、「サマーシーズン」と名付けた、過去2年間の全てのシーズンのシグネチャーを集めたベストセレクション的なコース。「野菜だけでなく、肉や魚も使うことで、ノマに食材を提供するのに関わる、全ての人々を支えることができる」(レネ・レゼピシェフ)というのがその理由。デンマーク政府の要請を受け、「ラウンジ」として屋外席も作った。現在、15~17皿のテイスティングコースを2650デンマーククローネ(約44,000円)で、ワインペアリングを1,450デンマーククローネ(約24,100円)、ジュースペアリングは950デンマーククローネ(15,800円)で提供しているが、これまでにない、シグネチャー揃いのコースの魅力に加え、バカンスシーズンに突入し、EU内の移動が解禁された影響もあってか、現在予約を受け付けている10月3日までは、既に予約で満席の人気ぶりだ。2021年までは、50~75%ゲストが減ると試算し、人々がコロナ前のように自由に旅をして食を楽しむのは、2022年以降になると考えているそうだが「秋以降は、元のように狩猟肉と森のシーズンに戻り、EUなどからの海外客も少なくなるだろうが、地元デンマークのゲストから、想像以上の大きなサポートを得ているので、秋により多くの地元の人たちを迎えるのを楽しみにしている」という。

コロナ禍以前のノマ2.0を代表する料理の一つ、海藻のチップにガーデンでとれた食用花、ラディッシュ、 ホースラディッシュを飾った「バタフライ・フラットブレッド」。

人の気持ちに寄り添うレストランに

「今の人々の気分に、ファインダイニングはそぐわない。今は、地域の人と共に癒しあえるような場所にしたい」と、5月21日から、6月21日まで、店の庭を開放して、ナチュラルワインとハンバーガーを提供して来たノマ。ワンハンドで気軽に食べられるハンバーガーとはいえ、スモークした牛脂を入れた牛肉のパティを使ったチーズバーガーと、キヌアを麹菌で発酵させたパティに、そら豆醤油などを塗って焼き上げたベジタリアンのバーガーと、同じ具材でバンズからミルクを抜いたヴィーガンのバーガーなど、「ノマらしさ」溢れるバーガーが、それぞれ150デンマーククローネ(約2,400円)で販売され、長蛇の列ができる人気ぶりだった。手順が多く、チーズバーガーに比べて作る数が少ないこともあり、ベジタリアンとビーガンのバーガーは、早々に売り切れることも多かったという。

約1 ヶ月間、ノマを開放し開いたハンバーガーとナチュラルワインの店は、地元の人などで大行列の人気。赤ちゃん連れで楽しむ家族の姿も。

ロックダウン期間中は美食を再定義。
ハンバーガーを頬張る地元の家族連れの姿も。

食を通してより良い未来を創る

また、レゼピシェフは2011年に料理人、サービススタッフ、食べ手が協調して世界にサステナブルな変化をもたらすための組織「MAD」を創立した。さらに、デンマーク政府の支援を得て、環境やサステナビリティ、リーダーシップやビジネスなどについて料理人が学べる教育期間をコペンハーゲンに設立し、今年も9月と10月にも「秋学期」の授業として、5日間の授業が4回行われる。次回の開催は来年の春となる予定だ。

困難な状況にいる人々を、食を通して救うというレゼピシェフの姿勢は、8月4日にレバノンの首都ベイルートで起きた爆発事故でも発揮され、16日にはチケット料金2000デンマーククローネ(33,780円)の100%が赤十字に寄付されるディナーイベントを、コペンハーゲンにある系列のカジュアルなレストランバー、「バー」で開催した他、SNSなどを通して世界に募金を呼びかけた。「人々は、誰かと食事をするという行為自体や、質の良い食事を賢くとること、周りの人々を支えることに、お金を払うようになっていくでしょう。収入が減る人が多いでしょうが、代わりに服をたくさん買ったり、最新の携帯を買うことを控えるようになると思います」と語ったレゼピシェフは、コロナ禍を通して、自身の価値観も変わったと語る。

今年のサマーシーズンの一皿、「ロブスターとバラ」ロブスターと野バラの花びらをブラックカラントの枝に刺したバーベキュー

「自粛期間中、生活はスローダウンしました。それは、ただ遅くなったのではなく、より他のことを深める時間になったと思います。これまで、レストランはしっかりと組織化されていて、常に完璧なメニューを生み出し、レストランのデザイン自体も素晴らしい『隙のなさ』が当たり前になっていました。若手のシェフが、多少の当たりはずれはあっても、イキの良い料理を作る、というようなことが、許されない世の中になっていた。今後私は、完璧にオーガナイズされた料理ではなく、もっとのびのびと料理を作りたいと思っています」。

そんなノマの新しいクリエイションが、どんな風に、今考案中だというノマ3.0に生かされていくのかも楽しみだ。

海に囲まれたデンマークは、世界有数の漁業国でもある 。地元産のブラック・ロブスターも、人気食材のひとつだ。

text 仲山今日子

本記事は雑誌料理王国2020年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2020年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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