食関係者が集うインキュベーション施設が東京・名古屋に来春誕生


来年3月、東京と名古屋に食のインキュベーションセンターが誕生する。
海外諸国では、国を挙げて創出した食研究機関やベンチャーの交流施設など、
大規模なインキュベーションセンターが次々と誕生しているが、日本ではこういった動きが鈍い。この2施設の誕生が今後の良い流れを作っていくことを期待したい。

シグマクシス田中氏による解説

涙が出るほど海外と差があるのがここ。日本がもっとも立ち遅れているところです。

スペインで”Basque Culinary Center (バスクカリナリーセンター)”という産官学連携の巨大な食研究学術機関が立ち上げられたのが2009年で、日本にはいまだそうしたスケールの機関を立ち上げる計画もない。つまり単純に10年、15年遅れています。

  他にも1946年 創 立のアメリカのCIA (The Culinary Institute of America)、2004年にはトリノ食科学大学(イタリア)、 Foodvalley(オランダ)が立ち上がり、 2007年にat-sunrise(シンガポール)が設立と、とんでもない料理大学がゴロゴロあるし、アクティブに活動しているコミュニティを数え上げたらキリがありません。

 海外が50の位置にいるとすると、冗談抜きで日本は10……くらいでしょうか。まだとても背中は見えません。

 最近、国内の食産業でCVC(CorporateVenture Capital)やフードテックファンドが立ち上げられていますが、欧米ではもう「CVCではない」という評価になっていて、現在の主流はオープンラボ方式に移っています。 

 例えば、パスタで知られるイタリアのBarilla(バリラ)社はパルマの研究所 “Blu1877″をベンチャー向けに開放し、試作品の製造設備やラボ、トレーニングプログラム、専門家コミュニティへのアクセスも提供しています。

 またアメリカのヨーグルトメーカーのChobani(チョバーニ)は、”Food Tech Residency”というベンチャー共生モデルを構築。Chobaniが抱える課題を公開して解決できる技術のありそうなベンチャー企業を自社のオフィスや工場に滞在させて、その場でパイロットテストまで実施してもらう、という例がそこかしこにあるわけです。

 なかでも衝撃的だったのが、MISTA(ミスタ)という完全なオープン型のベンチャー育成プラットフォーム。香料のGivaudan(ジヴォダン)、乳製品のDanone(ダノン)、菓子のMARS(マーズ)、原料のIngredion(イングレディオン)の4社が共同で立ち上げたインキュベーションセンターで、低温殺菌施設などを備え、2019年3月に立ち上げたと思ったら、年末にはもう40社超のベンチャー企業を取り込んで育成しながら研究を進めている。

 欧米の食はそういうスケールとスピード感で先行しています。国内各社の覚醒を強く願っています。(田中宏隆 談)


食関係者が集うインキュベーション施設が東京・名古屋に来春誕生

日本でも来春、東京と名古屋に食のインキュベーション施設が誕生する。JR東日本が運営する「新大久保フードラボ(仮称)」と、バウムクーヘンのユーハイムが手がける「バウムハウス」だ。あらゆる食関係者が集い、新たな食の形の創出を目指す。

JR東日本 東京感動線「新大久保フードラボ(仮称)」

人々の交通を支えるJR東日本が、今度は食の交流を生み出す

来年3月、東京新大久保駅の3・4階に「新大久保フードラボ(仮称)」が誕生する。運営元はJR東日本(東京感動線)。オレンジページとアスラボ、CO&COの3社と連携し、食を通じて新たな文化やライフスタイルを生み出し、世界へ発信するための実験的施設だ。

3階は「シェアダイニング」。厨房3つとドリンクパントリー1つ、客席が入る。「食にまつわるワークショップを開いたり、国内外の個性的な料理人を集めて腕をふるっていただいたり、驚きや発見のあふれる場にしたい」と同社でこのプロジェクトを担当する服部暁文氏は話す。

 4階は、製造ができる厨房を備える「コワーキングスペース」。会員制で、料理人や食メディア、研究機関、生産者など食関係者が一堂に集う場にする。例えば、小さな料理店がオンライン展開を検討するための試作を行ない、同じフロアにいるプロダクトデザイナーにパッケージを相談するなど、食をテーマに異分野同士の交流や共創が期待できそうだ。

 「このラボで生まれる商品を、エキナカや駅ビルで紹介したり、オンライン・オフライン相互に販売する可能性を探ったり、様々に展開できると思います」と服部氏。交通機関として人々の交流を生み出してきたJR東日本は、顧客とのタッチポイントが多く、幅広い販路を持つ。その強みを今度は新たな食の創造に生かしていく。

4階の「コワーキングスペース」

ユーハイム「バウムハウス」

食分野の「バウハウス」を目指す
洋菓子メーカーの新たな挑戦

ドイツから日本へバウムクーヘンを伝えたカール・ユーハイム氏を創始者に持つ、洋菓子メーカーのユーハイムは、「食の未来の創造」をテーマに掲げた複合施設「バウムハウス」を名古屋・栄にオープンさせる。「バウムハウス」という施設名は、ドイツで革新的な美術教育を行い、後世のアートシーンに多大な影響を与えた「バウハウス」と、ユーハイムの主軸であるバウムクーヘンを掛け合わせて生まれた。

 1階は「バウムハウス イート」というフードホールで、カフェやデリ、ベーカリーに加えて、ポップアップショップでのテスト販売も行なう。2階はシェアオフィス「バウムハウス ワーク」。フードテック関連のスタートアップをインキュベーションする会員組織「フードテックイノベーションセンター」が入り、ショールームも開設。そこではアバターロボットを常設して、遠くにいても展示会に参加でき、最新のフードテック機器を直接体験したような臨場感が味わえるという。

「ユーハイムのお菓子作りは『純正自然』がモットーで、添加物を使わず大量のお菓子を作るという挑戦をしてきました。実現には関連企業の協力が必須で、周りを巻き込んで新しいものを作るという体制があります。その気質を引き継ぎ、この場所でも食の新たな価値観を生み出す、オープンイノベーションの場にしたいと考えています」と同社新規事業部中村理氏は意気込む。

2階の「バウムハウス ワーク」

text 松浦達也、笹木菜々子 取材協力/写真提供 シグマクシス 田中宏隆

本記事は雑誌料理王国2020年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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